第23話 プレイヤーの特性?
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井ノ崎真
レベル【一〇】【チェイサー:Lvmax】
選択可能クラス【シャドウストーカー】【チェイサーⅡ】【ローグⅡ】【白魔道士Ⅱ】
クラスがかなり端折られてる。ステータスウインドウからだと、下位クラスである【剣士】なども出てくるのに。まぁこういう仕様だと割り切ろう。プレイヤーはステータスウインドウを使えってことなんだろう。
それにしてもどうして僕がマナを込めたら目に痛い光なんだよ。メイ先輩みたいな厳かな感じじゃなくて、凄くチープに感じる。いや、これも別に良いんだけさ。
とりあえずこの【シャドウストーカー】だ。
名前はちょっと嫌なんだけど、わざわざ【チェイサーⅡ】を差し置いて前に出てきてるんだから、レアなクラスなのか?
ステータスウインドウから調べてみると、どうも《スキル》が強力になっていくようだ。【チェイサーⅡ】はどちらかと言えば素の身体能力の正当強化という感じ。
素の身体能力が順当に強化されても、正直メイ先輩ほどの火力を発揮できる訳じゃないし、特別な技術……“技”がないので宝の持ち腐れだろう。《スキル》の創意工夫や強化の方が僕には向いている気がするし、メイ先輩との連携を考えても【シャドウストーカー】の方が良さそうだ。
「ええと。【チェイサー】から【シャドウストーカー】というのが出たので、メイ先輩とのバランスを考えてそっちにクラスチェンジしますよ? 良いですか?」
「……イノ君の選択に任せる。……私に合わせてくれてありがとう」
「【シャドウストーカー】か。あまり出ないクラスだ。影を用いたスキルや気配の隠蔽に長けると聞いたことがあるな。……それにしてもどうして井ノ崎の場合は光り方が違うんだ?」
それは僕が聞きたいよ。目に痛いし。
「他にこんな光り方をする人は居ないんですか? もしかしたらプレイヤーかも知れませんよ?」
「…………そうだな。一応調べておこう」
適当に言ったんだけど、野里教官は割とシリアスに受け止めたみたいだね。いや、こんなのでプレイヤーが炙り出せればそれに越したことはないだろうけどさ。なんか適当に言ってゴメンナサイ。
「それはともかく、これで井ノ崎もショートカットの登録が出来たはずだ。石板機能で戻った後、改めてゲートを潜って試すぞ」
「……教官。こういう場合はゲートの使用許可は?」
「ああ大丈夫だ。今日は念のためにそれを見越して、市川先生に二つに分けた申請をしてもらっていたからな」
違法ダイブ生活が長かったせいで気にもしてなかった。でもメイ先輩の言う通り。帰還直後とはいえ、ゲートへ入り直しなんて普通はダメだよね。野里教官もそれを踏まえてちゃんと正規の手続きしてるし……。
何故か凄く負けた気がする。ちょっとゲーム的な感覚にトリップし過ぎてるかも。もう少し現実側に軸足を置くように注意しよう。
……
…………
ドロップアイテムを回収後、さっそく石板の帰還機能でゲートの入口まで戻り、改めてダンジョンダイブ。
ゲートに触れた瞬間、頭の中に『一階層から』『五階層から』という選択肢が出てきた。カーソルを合わせるイメージで『五階層から』を選択。
三人で改めて五階層のボス部屋に戻ってきた。
「これがショートカット……。もう一度五階層のボスと戦う際は『一階層から』ですか?」
「そうだな。改めて一階層から挑むと階層ボスは復活している。あと、ゲートを潜る際、既に他のチームがボス戦をしている場合はショートカットは使えない。学園にいる間は特に問題はないだろうが、探索者としてダイブする場合、ゲートによっては混雑することもあるため、他のチームのダイブ予定を確認しておく必要も出てくる」
なるほどね。学園に在籍中は、基本六階層から先は規制されてるから、ほぼ全班が『一階層から』になるってことか。渋滞したとしても、どの班がボスに挑戦するかで揉めるくらいかな。
「ちなみに六階層への階層ゲートはどこにあるんです?」
「ボス部屋への入り口が、そのまま六階層への階層ゲートへ切り替わっている。つまり、ボス部屋から五階層に戻ろうとしても戻れないという訳だ。かつてはこの仕様に気付かず、五階層へ戻ろうとして六階層へ行き、そのまま全滅という事故もあったらしい。ダンジョン学園が整備されてからは、流石にそんな事故はないだろうがな」
そう言って、野里教官がボス部屋の入り口を指で示した。何と言うか、初見殺しな仕様だね。
「それで井ノ崎。ボス部屋へのゲートを潜った時、何故遅れた? 最初は単に出遅れたと勘違いしたが、よく考えると、私はお前と鷹尾の後ろに位置してゲートを潜ったはずだ。井ノ崎だけが遅れる訳がない。……何かあったのか?」
流石に覚えていたか。それに野里教官は【獣戦士】の特性なのか、やたらと勘が働く。ダンジョン内だと特にだ。なかなか誤魔化すのが難しい。
「……まぁ今更ですけど、やはり僕は“プレイヤー”だったという事ですね。教官やメイ先輩には二秒のタイムラグでしたけど、僕だけ別の部屋に飛ばされてました」
「別の部屋だと?」
さて、何処まで話すか。まず「ストア」やダンジョンの難易度についてはまだ伏せておく。ちゃんと話をするのは、少なくとも十階層を超えて、実際に「ストア」が開放されてからだろう。本当かどうかも今は確認できないし。
あと、現在進行系で活動しているプレイヤーについても、本人たちのこの世界での立ち位置を確認するまで、迂闊な事は言えないだろうね。
……
…………
掻い摘んで皇さん(模擬)に出会った事を話す。とりあえずはプレイヤーへの案内板のような存在だと。
「……皇恭一郎。それが“
「いやいや。もしかしたら壮大なペテンかも知れませんから、一度波賀村理事に確認して下さいよ? 理事ならダンジョン学園設立に関係したプレイヤーの情報も知ってるでしょうし」
「……皇の名は聞いたことがある。ダンジョン関連で財を成した一族だと。獅光重工……獅子堂家も付き合いがあったはず」
お? 名家は他家を知るのか。武人の顔が強く出てるけど、正真正銘、メイ先輩もお嬢様らしいしね。
「……ただ、皇家はある時からダンジョン開発に反対の立場を表明して、表舞台から姿を消したと聞いた気がする」
皇さん自身は、ダンジョンはこの世界の探索者では荷が重いと考えてたらしいし、その関係かもね。
「ボス戦で使ったあの《纏い影》も、その模擬人格とやらに教わったのか?」
「ええ。スキルやクラスについてもかなりの知識があるようでしたね。……次に出会う可能性があるのは、二十階層のボス部屋へのゲートらしいですから、それまでに質問事項をまとめておけとも言われましたね」
「……二十階層……まだまだ先」
これで話は終わりという空気を出してるけど、野里教官の視線が鋭い。
今となっては、教官のことを序盤のお助けキャラだなんて思っていない。共にダンジョンの深層を目指す同志だ。
それでも、やはり実証出来ない話はおいそれとは出来ない。……下手をすると、野里教官の過去を抉ることになるかも知れないしね。
「そんなに睨まなくても言いますから。まだ伏せている情報はありますけど、それは十階層を超えないと確認できないんですって。ちゃんと確認出来たら言いますよ」
「……その話に嘘はないようだな(だが、コイツは他にも何か隠している気がするな)」
怖いよ、歩く嘘発見器(ほぼ勘)め。どうせ他にも隠しごとがあるって気付いているんだろうな……。
チラリとメイ先輩を見ると、こっちも若干能面顔になってるし。お嬢様も何か察してるよね、これ。
「……次は六階層。教官、今後の予定は?」
「そうだな。しばらくは五〜六階層でレベル上げだ。井ノ崎は【シャドウストーカー】の習熟、鷹尾は【武者Ⅱ】へのクラスチェンジが目先の目標だな」
話を変えてくれた。教官はともかく、メイ先輩も大人対応。話せる時がきたら、ちゃんと言うから勘弁して下さい。
ただ、僕にも疑問があるんだ。「ストア」で武具を購入出来るなら、何故オリジナルの皇さんはその武具を周りの探索者に配らなかったのか? この点は皇さん(模擬)に聞いたけど答えてくれなかった。探索者の死亡率を下げるなら手っ取り早い手段だと思うんだけどな。
僕はメイ先輩や野里教官に提供するつもりだけど、もしかすると「ストア」の武具には何らかの制限があるのかも知れない。プレイヤー以外は使えないとか? そうなるとかなり困る。
あと、波賀村理事たちの“ダンジョン症候群”。これも皇さんなら何とか出来たような気がする。
皇さん(模擬)が創られたのは一九八〇年だけど、既にその頃には、探索者の一部で「
ダンジョンについては割と親切に教えてくれたけど、皇さん個人のこと、この世界の探索者の助けになるような質問は塩対応だった。
あくまで勝手な想像だけど、質問の回答傾向から、皇さんはこの世界に対して悪感情を持っていた気がする。少なくとも僕はそう感じた。
決定的だったのが「何故ダンジョンから出てこないのか?」という質問。皇さん(模擬)の回答は至ってシンプル。
『外への興味が失せたから』
これはプレイヤーだからなのか。それとも、皇さんにそう言わしめるナニかがあったのか?
嫌な話だけど、周囲からの迫害とか、ヤバい人体実験なんかが頭をよぎったね。平気でやりそうだ。世界が変わっても、所詮人間の有り様に変わりはないだろう。
特にこっちの世界では、ダンジョンの謎を解明するため、魔物へ対抗するため……なんてことを大義名分にしやすい。
「野里教官。僕は波賀村理事のことを知りません。理事という立場なら、恐らく過去の“
いつものニヤニヤ顔じゃない。真剣な野里教官の顔。
「ふん。ガキに心配されるまでもない。その程度のことは承知の上だ。過去に現れた“
僕はまだまだ子供だ。
学園……というか、権力を持つ側が本気になれば、過去のプレイヤーが受けたかも知れない、非道な仕打ちを繰り返される可能性だってある。出来れば穏便に済ませて欲しいモノだね。
いやいや、ちょっと待て。やっぱり僕はどこかおかしい。普通だったら恐怖や不安を抱くところのはずだろ? なのに『まぁそういう可能性もあるよね』程度で終わりって、どう考えてもおかしくない?
これはプレイヤーの特性なのか?
朧げだけど、前世の僕は自分の身の安全にここまで無頓着じゃなかったはず。記憶にある“井ノ崎真”だって、こんなロックな生き方を是とする子じゃない。
あれ? 今更だけど、“僕”ってなんだ? 井ノ崎真?
じゃあ、僕の記憶にある妻や子供は? 前世でまだ結婚する前の彼女に出会った時の高揚は? 子供が事故で入院した時の不安は? ひ孫を膝に乗せたあの感触は? 妻を看取った時の空虚さは? この世界で何の躊躇もなく、初恋の女の子の腕を折ったことは? 幼馴染の男の子の顎を打ち抜いたことは? 何故、いきなりゴブリンを殺せた?
「……イ……君…………ノ…………イノ君。…………大…………夫?」
あ、メイ先輩? 呼ばれてる? 返事しなきゃ。そうだ。彼女は“同志”だから。
「……イノ君! ……大丈夫?」
「え? あ? …………え、えぇ。だ、大丈夫です、大丈夫」
いつもの無表情よりの顔じゃない、少し困ったようなメイ先輩が目の前にいる。ちょっとトリップしてた。危ない危ない。心配かけちゃった。
「……本当に?」
「えぇ大丈夫です。……ちょっと、自分のアイデンティティに疑問を感じ、この大宇宙、ひいては世界全体と僕の魂と呼べる存在との間に確かな繋がりはあるのか? 僕自身の存在とは一体何なのか? という、答えのない壮大な問いに没頭していただけですから、はい」
一転して能面顔になった。
「………………そういうイノ君、私は嫌いだな」
メイ先輩に怒られてしまった。言い分がテキトー過ぎたね。いや、実際には言葉通りのことを考えていたんだけどさ。
「おい。じゃれてないで準備しろ。せっかくだから、一度六階層に行くぞ。今日は一戦だけして終わりにする」
「……はい」
「はいはい。分かりましたよ」
考えても答えが出ない問題は一時スルーだね。
まずは目先のこと。
難易度が跳ね上がるという六階層はどれほどのモノかな?
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