第22話 五階層 ボス戦
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「はぁ……細かいところはスルーしますけど、僕にはダンジョンがない日本で暮らした記憶があり、この世界でステータスウインドウを呼び出すことができます」
既に皇さん(模擬)に対しての警戒は解いた。いや、驚きと共に勝手に解けてたと言うべきか。
『そうか。皇と同じ。やはり君もプレイヤーで間違いないようだな』
そうだ。そのプレイヤーのことを聞かないと。
「結局、プレイヤーって何なんですか?」
すると、今まではノータイムで答えてくれていた皇さん(模擬)が、片手を顎、片手を逆の手の肘にという、俗に言う考える人ポーズになった。まずい質問だったのか?
『……今のオリジナルの皇なら解るのかも知れないが、俺は正解を知らない。俺が創られた時点の皇は、プレイヤーについての考察は放棄していた。いくら考察しても答え合わせが出来ないからな。もしダンジョンの最奥を目指し、オリジナルの皇に会ったら聞いてみてくれとしか言えない』
「……何百年単位でダンジョンダイブしている人に追い付けるとは思えませんけど?」
このダンジョン、僕が想像していた以上に先が長そうだね。でも不思議と諦める気になっていない。もしかすると、これがプレイヤーに課せられた何らかの強制力なのかも知れない。……っていうか、絶対に僕は何らかの“操作”をされているだろうしね。魔物と平然と殺し合いできるのがまずオカシイ。聞けば、そういうのは親和率には関係ないらしいし。
『あくまで推察だが、オリジナルの皇はそこまで先行している訳ではないはずだ。このダンジョンは、複数のプレイヤーで攻略することが前提となっているようだからな。もしかすると、他のプレイヤーがある程度追い付くまでは、安全地帯で休眠しているという可能性もある』
冬眠する熊かよ。まぁ《スキル》なんていう不思議パワーがまかり通る以上、あり得ない話でもないのか? プレイヤーが近づいたら目覚めるとか?
「オリジナルの皇さんは良いとして……ここを訪れたプレイヤーは僕以外にもいます?」
『この第二ダンジョンゲート経由では八人だ。俺は一旦ココを訪れた者を二十階層までなら追跡できるんだが……残念ながら一人はダンジョン内で死亡した。五人はダンジョンダイブを繰り返しているが、まだ二十階層を超えてはいない。残りの二人は数年前からダンジョンダイブの形跡がないな。一般人として、ダンジョン以外で人生を謳歌していると思いたい』
プレイヤーが僕以外にも居ると聞いて少し安心した。まぁこの皇さん(模擬)の情報を信じるならだけど。
……
………
その後も皇さん(模擬)にアレコレ情報を聞いておいた。
皇さんのこと、この世界の探索者のこと、ダンジョンでの戦闘や魔物のこと、クラスやスキルのこと、ステータスウインドウやインベントリのこと、ダイブを継続しているプレイヤーのこと。
その中でも、プレイヤーのダンジョンダイブの生命線と言えるのが、ステータスウインドウの「ストア」らしい。これは十階層を超えることで解放されるという。
この「ストア」を利用したアイテムたちが無ければ、十階層から先は厳しいとのこと。少なくとも先々の魔物には「ストア」で強化した武器で無ければまともに攻撃が通らない。つまり、この世界の探索者はレアドロップの武具やダンジョン資源で作成された物に頼っており、探索が進まないのも当たり前だという。
僕なんかはまだまだチュートリアル中だったということだね。「ストア」が解放されてからが本当の勝負のようだ。
ダンジョンの難易度は僕たちプレイヤーからしても狂ってるけど、この世界の探索者からするとヘルモード以上の難易度であり『挑む方が間違っている』と、若き日のオリジナルの皇さんは頭を抱えていたそうだ。結果として、今の学園や探索者協会の安全傾向が出来上がっていったらしい。
野里教官は十五階層を超えられなかったと言っていた。
残酷だけど、それはダンジョンの難易度的に“当たり前”のこと。いわゆる無理ゲーというヤツ。……仲間を喪っただろう野里教官のことを思うと何だかやり切れない。
そう考えると、公表されている最高階層の三十八階層というのも、プレイヤーの協力によるものなのかも知れない……と、皇さん(模擬)に聞いたらノータイム『当たり前だろう』とのこと。
ただ、皇さん(模擬)は色々と情報をくれたけど、一部の質問には『教えられない』『知っているが教えるつもりはない』とか、割と口をつぐむ場面もあった。
ハッキリと分かったのは、ダンジョン学園や探索者協会に対して良い印象はないということ。……嫌な感じだ。僕の中にもちょっと嫌な想像が駆け巡っている。
『……そろそろ良いか? 時間切れのようだ。俺が知っている計画通りなら、次は二十階層にココと同じような仕込みがあるはずだ。もしオリジナルの皇が新たに情報を書き換えているなら、今の俺以上の情報が得られるだろう。俺たちは直接的な手助けは出来ないが、せめて次のために質問事項をまとめておくと良いだろう』
「色々とありがとうございました。次は二十階層……情報が更新されていることを願っていますよ」
この空間もダンジョンシステムを利用したモノであり、外とは時間の流れが違っているらしい。時間制限ギリギリまでここで過ごしても、五階層のボス部屋に二秒遅れで辿り着く仕様とのこと。
つまり、ここを出たらいきなりホブゴブリン戦が待っているわけだ。気持ちを戦闘モードに戻しておかないとメイ先輩に迷惑を掛けることになる。
皇さん(模擬)の姿が徐々に薄くなっていく。この姿が完全に消えた瞬間、五階層のボス部屋に戻されるらしい。いや、戻るというのも変な話だけど。
……
…………
………………
「ッ!(ここがボス部屋かッ!?)」
「おい! 遅れるなと言っただろ!?」
「……イノ君! 強化ゴブリンが多い。一先ず当たる!」
いきなり鉄火場か。
薄暗い部屋で話し込んでいた所為か、トンネルを抜けた後みたいに視界が一瞬白くなる。くそ。
二十メートルほど前にゴブリンの集団。
真ん中にいる、ゴブリンリーダーより一回りデカいアイツがホブゴブリンだろう。周囲にはゴブリンが十二体か。聞いてたより多いじゃん。
ざっと見たところ、前衛組の五体に強化ゴブリンの匂いがする。武器の構え方がまず違う。
メイ先輩は既に《甲冑》を展開して駆けている。正面から強化ゴブリンに当たるようだ。
まず、事前の打ち合わせ通りにメイ先輩に白魔法の《ヘイスト》と《ディフェンス》をかける。
僕も行く。さっそく皇さん(模擬)から聞いた変則スキルだ。
インベントリから出した予備の短剣に《纏い影》を絡ませ……ぶん投げる。短剣はメイ先輩を追い越して、先頭の強化ゴブリンに迫るも軽く躱された。
ゴブリンの注意は既に短剣にはなく、向かってくるメイ先輩に向けられている。思いのほかあっさりと釣れた。短剣は空中であり得ない軌道を描き、後ろからゴブリンの後頭部に突き刺さる。確認するまでもない致命傷だ。
《纏い影》はかなりの自由度が効き、攻防に便利で、投擲した短剣に纏わせて軌道を変えたり、そのまま振り回したりも出来るそうだ。あの部屋の中で試したら、割と簡単に出来たので即実戦採用。
まず一体。と思っていたらメイ先輩が別の一体と当たり、一合で切り伏せた。恐らく優先的に強化ゴブリンを狙いながら、ホブゴブリンの注意も引いている。今のバフ済みのメイ先輩の立ちまわりなら、そうそう囲まれることはないはず。僕は回り込んで後衛のゴブリンを狙う。
後衛の弓ゴブリン。こいつは強化された奴だ。さっきからかなりの精度で矢が飛んでくる上、一度は《纏い影》を貫かれた。油断はしていなかった筈なのに。
僕の接近を嫌がり、他のゴブリンを壁にして更に矢を射かけてくる。単純に逃げないのは流石だ。でも、ここまで接近したら僕の攻撃も届く。
目の前に居た通常ゴブリン二体を切り伏せ、そいつらの死体を壁にし、弓ゴブリンの死角でインベントリから鉄球を取り出す。
くそ。弓ゴブリンの方が上手だった。奴の矢が肉壁を貫いて僕の胸に直撃する。矢は《纏い影》で防ぎ刺さりはしなかったけど、完全に防げなかった衝撃により、呼吸が詰まって動きが止まる。肉壁を信頼し過ぎた。
僕の動きが止まっている間に、奴は更に距離をとり、次はメイ先輩を狙っている。させるか。
鉄球を投げ、その結果を見るまでもなく駆ける。
最初の変化する短剣の軌道を見ていたためか、鉄球を避けた後、その注意が鉄球に向けられていた。残念だったね。それはただの鉄球で、こっちが本命だよ。
《纏い影》で投擲した鉈が、弓ゴブリンの頭部を吹き飛ばし、脳漿と血がぶちまけた。
僕は《纏い影》をゴムのように使って鉈を手元に戻し、そのまま周囲に残っていた通常ゴブリンを狩る。
メイ先輩を見ると、既にホブゴブリンと打ち合っているけど、周囲には強化ゴブリンも残っている。《纏い影》で鉄球を三つ飛ばす。三つ同時操作だと一撃必殺は無理だし、かなりの集中力が必要になるけど、けん制程度にはなるだろ。某アニメのニュータ○プの凄さを実感するね。……って、だから何でこんな場面だけ記憶が鮮明なんだよ。
鉄球で気を散らした強化ゴブリン、すかざずメイ先輩が顔面に《甲冑》を纏った裏拳を喰らわせた。ゴブリンは反撃の余地もなく吹き飛んで動かなくなる。
メイ先輩の隙を突く形で、ホブゴブリンが動くけど、更にその隙を突いて後ろから鉈で一撃。
斬るというより殴打に近かったけど、奴の体勢を崩すことはできた。やはり強化ゴブリンよりも固い。
「ギャジャッ!」
「うおッ!?」
ホブゴブリンが、体勢を崩しながらも振り向きざまに一閃。《纏い影》の集中防御で受けるも、吹き飛ばされる。咄嗟のことだから鉄球の操作も切れてしまった。
「イノ君! 無事!?」
「な、何とかッ!」
いつの間にか、残りはホブゴブリンと強化ゴブリン二体。
「……くッ! イノ君の仇は討つ。……来い!」
いや、僕死んでないから。
メイ先輩がホブゴブリンと打ち合う形になってる。残りの強化ゴブリンは僕の相手か。
鉈と入れ替えで鉄球を取り出し、メイ先輩を横合いから狙っている剣の強化ゴブリンを狙う。
今となっては僕の投擲に警戒が強く、かなり余裕をもって躱したようだ。メイ先輩の打ち合いの時間稼ぎはできたかな。……と思っていたら、逆にもう一体の斧の強化ゴブリンが投擲後の僕に肉薄してきた。
「ガギャァーーッ!!」
「………しッッ!!」
インベントリから取り出した勢いそのままに、カウンター気味の鉈の一撃で首を狩り飛ばす。悪いけど、いくら強化ゴブリンとは言え、一対一ならもう遅れは取らない。
「……《虎断ち》ッッ!!」
「ジェギャッ!?」
残りの強化ゴブリンを……と思っていたら、メイ先輩が屠っていた。既にホブゴブリンも地に伏している。あれ? メッチャ早くね? ほとんどメイ先輩一人で終わらせた?
……
…………
「ふん。強化ゴブリン六体を含む十二体とボスか。なかなかの引きだったな」
「強化ゴブリンが後衛に偏っていたら、ちょっと危なかったかも知れませんね」
「……前衛は私と相性が良かった。……イノ君の仇も取れた」
いや、だから僕は死んでないし。遠い目をして拳を握らないで。どこに何を誓ってるの。
「まぁゴブリン共には不幸だが、確かに鷹尾には噛み合っていた。ホブゴブリンも結局は一刀のもとに切り伏せたしな。あの一撃は見事だった」
「……ありがとうございます」
その一撃とやら、僕見てないんだけど……そんなに凄かったの?
「それにしても井ノ崎、何故遅れた? あと、あの《纏い影》は何だ?」
「……色々とあるので……後で説明します。まずはボス戦後の流れを教えて下さいよ」
「……初めにボスが居た場所。その後ろのアレ?」
すっとメイ先輩が指をさすその先に、あの皇さん(模擬)の出現のきっかけとなった石碑を二回りほど小さくした物があった。
「……まぁいい。あの台座に埋め込まれた石板が転魂器と鑑定機を兼ねたモノであり、ダンジョンのショートカットの目印となる。今回、ホブゴブリンを倒したのは鷹尾だが、恐らく共闘ということで井ノ崎も使用できるはずだ。あまりにもレベル差が大きかったりすると、共闘と判断されない場合もあるがな。その辺りの判定は曖昧だ」
ホブゴブリンの初期配置場所、周囲より一段高くなったライブステージのような台があり、そのステージの上に更に台座が設置されている。
野里教官の話だと、あくまでホブゴブリンを倒したチームとかパーティが資格を得ることが出来るという感じみたいだね。パワーレベリング的な寄生プレイ一辺倒じゃダメってことか。
実は今回の戦いで【チェイサー:Lvmax】へ到達したので、ステータスウインドウじゃなくて、一度この石板でクラスチェンジしてみようかな?
「まず、使用が確実な鷹尾から、その転魂器のような水晶玉にマナを流してみろ。頭の中にイロイロと出てくるはずだ」
「……はい」
メイ先輩が静かに水晶に手を触れ、マナをゆっくりと流す。転魂器を使った時と似たような感じで、柔らかくて暖かい光が水晶に灯る。
「……レベル【八】【武者:Lv5】。クラスチェンジの選択は……【武者Ⅱ】【野武士】と出ました」
メイ先輩の成長の道筋がほぼ固定化されてきた感じだね。しかし【野武士】て。どんなクラスだよ。気になってはいるけど、何故か今回は僕のステータスウインドウで説明欄が出てこない。基準がよくわからない。
「鷹尾はどうする? このまま【武者】の上位クラスを経ていく感じか?」
「……はい。出来ればそうしたいです。今の戦い方が私には合っていますので……クラスLvを限界まで上げてから【武者Ⅱ】にクラスチェンジしようと思います」
この感じで【武者Ⅱ】があるってことは、【武者Ⅲ】【武者Ⅳ】とかもありそうだね。二十階層で皇さん(模擬)に会えたら、クラスチェンジの法則と種類とかを聞いてみようかな?
「そうか。なら今日はショートカットの登録だけだな。ちなみに今ので既に登録は完了している。次回ダンジョンゲートを潜るとき、頭の中に五階層の選択肢が出てくるはずだ」
「じゃあ、次は僕ですね」
メイ先輩と場所を交代して、僕も同じように水晶にマナを流す。
目を刺すLED的な青白い光。
『目が~ッ!?』
なんでだよ。
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