第18話 VS 幼馴染
:-:-:-:-:-:-:-:-:-:
クラスチェンジ後の【武者】。
野里教官曰く、専用の特殊クラス程ではないけど、割とレアで他のクラスより能力も若干高め。幼い頃から剣道などの和的な武道を習っていると出やすいらしい。
今のメイ先輩の戦い方に合っているようだ。
刀補正も強い上、片手でゴブリンをブツ切りに出来る程度の膂力もある。
防御面は《甲冑》という、その名の通り
この《甲冑》、防御力と持続時間は使用者の魔力に依存しているようで、先々も活用できそうな印象がある。
ゲーム的な思考として、後半に会得できるスキルは派手で能力も高いけれど、初期~中期のスキルの方が使い勝手が良いってこともあるからね。
次は武器。
メイ先輩が使用している刀は自前。ご両親が、ダンジョンでの使用を前提とした刀を特別に発注したとのこと。
それも伝統製法だけじゃなく、一部ダンジョンテクノロジーを取り入れたハイブリッドな業物だ。
ちなみに将来的な使用の可能性として、その時に太刀と槍も拵えて保管してあるようだ。理解のあるご両親だね。
その保管してあった太刀と槍は、今は僕のインベントリに収納している。
そう。メイ先輩と野里教官にはカミングアウトしたさ。予備の武器、防具、アイテム関連はインベントリ管理で試していく事にした。
僕の武器も新調した……というか、波賀村理事におねだりして良さそうな武器を借りた(返さない)。
今まで使用していた短剣より刀身が分厚く長い、片刃の鉈だ。
インベントリに収納すると「短剣」分類だった為、【チェイサー】の短剣補正(中)も継続できる。
僕にはメイ先輩のように素の状態での“技”がない。刃を立てて斬り裂くより、力任せにかち割る、ぶっ叩くといった方が向いているので、頑丈さを重視した。
後は投擲用に石だけではなく、鉄球を大量に用意してもらった。なるべく再利用するようにします、はい。
今まではレベルアップやスキル任せにしていた部分にもテコ入れしていく。しかも、今は学園の権力パゥワーもある程度は使えるしね。ビバ体制側。
「……五階層までなら、囲まれても《甲冑》で切り抜けることができる。でも、あの強化ゴブリンに囲まれるとなると……どれだけ耐えられるかが命の分かれ目になる」
「既に五階層では油断しなければ問題ないですけど……六階層を考えると不安がありますね」
概ね【武者】の習熟訓練が終わり、本格的に五階層のホブゴブリンと六階層対策のミーティング中。
「贔屓目なしでも、恐らくは今のお前たちなら五階層のホブゴブリンは撃破出来るだろう。しかし、他のゴブリンたちの配置によっては危うい。五階層のボス部屋は強化ゴブリンが混じっている。……嫌らしいことにな」
「全体の数はどれくらいなんですか?」
「そうだな。ホブゴブリンの周囲にゴブリンが十体前後といった所か……強化ゴブリンは二〜四体ほどが多いな。最悪なのは全てが強化ゴブリンの場合だ。その場合はホブゴブリンより厄介だ」
あの強化ゴブリンが十体か。
僕だけなら、緊張を切らさずにヒット&アウェイで時間を掛ければ……イケるか? でも、囲まれると倒しきるまでメイ先輩は耐えきれないかも知れない。
「……攻撃か防御……どちらかにあと一手が欲しい」
「ゆくゆくの課題ですね。とりあえず今回は《ヘイスト》《ディフェンス》といった
「……同志イノ君に頼り切り……かたじけない」
武士かよ! ……いや【武者】だからニアミスだけどさ。
……
…………
さてダンジョンだ。
正規のダイブなので、申請段階で日時やゲートも公開されている。これは登山家が山に行く際の登山計画書の届出みたいなモノなので致し方ない。
いざというときの助けにはなるけど、ときに行動が読まれてダンジョンで待ち伏せされるという弊害もある。
今みたいにね。
「はぁ。ヨウちゃんにサワくんも……ホントに来たの?」
忠告は役に立たなかったようだ。子供に刃物を持たせる以上、その管理はちゃんとして欲しい。もっとも、こういう事を含めて、ダンジョン学園の方針なのかも知れないけどさ。生徒の自主性と自由に頼り過ぎじゃね?
ま、僕の方としては、あの強化ゴブリンを見てから、ヨウちゃんたちに対しては少し冷めた。もはやモヤモヤもしない。いや、面倒だという意味ではモヤモヤするけど。
深層を目指す野里教官が生徒たちと接する時、もしかするとこんな心持ちだったのかもね。
「イノ。本当にダイブしてるんだね」
ヨウちゃんとサワくんが所属する班に、少し離れて……アレが獅子堂かな? 一人だけやたらオーラがある。メッチャ睨んでくるし、メイ先輩が能面顔になってるから間違いないだろ。
「ふん。お前たち、ダンジョン内の不干渉はどうした? 姑息な妨害工作の授業でもあったのか?」
おやおや、野里教官がいつにも増して不機嫌だね。今ならその心境を察せますよ。
「教官! 何故イノ……井ノ崎が特殊実験室に選ばれたのか教えて下さい! 俺たちは納得できません!」
サワくん。君は真っ直ぐで気持ちの良い、一昔前の主人公的な奴だと思ってたんだけどな。
ん? 一昔前っていつが基準だ? 前世? ……たまに自分でも良く分からない感じの言葉が浮かぶ。もしかすると本当に僕は誰かが操作するアバターなのかもね。そして、それを深く悩まないってのもよくよく考えると怖い話だ。何らかの操作的なモノも感じる。
「はぁ? 何故お前たちに納得して貰わないとダメなんだ? こいつ等は今から訓練なんだ。お前たちも自分たちの訓練に移れ。確か三階層までの申請だっただろ? サッサと行け」
「……教官、行きましょう」
煽るね。いや素か。教官とメイ先輩は、スタスタと階層ゲートへ向かっている。僕も追いかけるとするか。
「まぁそう言う事だから、サワくん達も頑張ってね」
自分の言い分がここまで通らなかったことも無いんだろう。サワくんがワナワナしてる。でもゴメンよ。もう君達の相手をしてる暇はないんだ。落ち着いたら、ダンジョンの外で会おう。
「……待てッ! 芽郁! ここでお前との決着をつけてやるッ!」
獅子堂か。よく通る声だしリーダー向きなのかもね。でも、急に大声出すなよ。
メイ先輩は止まらないし、振り向きもしない。良くも悪くもブレないな。
「……チッ! アイツを止めろ!」
「「はいッ!!」」
獅子堂班の一人が矢を射掛けてきた。本気かよ? 狙いはメイ先輩。もう一人は魔道士か? 魔法スキルの準備に入って……撃ちやがった。
コイツら馬鹿なのか? ダンジョン内、教官の前っていう条件で敵対行動に出るか普通?
え? 学園の生徒ってかなり自立して物分かりの良い子って感じじゃなかったっけ?
「……ここまで阿呆揃いとは……」
「……教官。帰還石を使いますか?」
メイ先輩はワケもなく矢を掴んだ。ほとんど見もしなかった。凄いね。割と矢の精度と威力はあった……つまりは相手が本気だったってことだがら、落ち着いてもいられないんだけど。
時間差で飛来した《ファイアボール》は流石に二人共避けた。まぁ相手も流石に魔法スキルをいきなり直撃させる気も無かったようだけど。
「獅子堂。お前、本気なのか? いまの行動がどういう意味か分かっているのか?」
「……関係ない。俺はその女と決着をつけるだけだ。芽郁、逃げるな!」
はい、教官。ヨウちゃんとサワくんの班もやる気なんで、こっちにも注意喚起をお願いします。
「……ねぇイノ。なんでイノや鷹尾先輩なのかな? 私や獅子堂の方が優秀だと思うんだけどさ?」
ヨウちゃん。
完全にキマってるね。闇堕ちというにはショボ過ぎないか? 全然響かないよ。何だか無理矢理感があるような……? ヨウちゃんやサワくんって、こんなにアホの子だったっけ?
「……ふぅ。オイ! 井ノ崎! 私が許可するから、このバカ共を無力化しろッ!」
「……教官。私は?」
「鷹尾は手加減が下手そうだからダメだ。防ぐだけにしろ」
「………………チッ」
メイ先輩、ちょっと暗黒面が出てきてるよ。乙女が舌打ちとかしちゃだめ。
……っていうか、僕が手を出しても良いのかな? まぁいざとなれば教官がどうとでも止めるか。確か、ガス抜きがどうとか以前にも言ってたし、ダンジョン内のイザコザっていうのは案外こんなモノなのかも知れない。
「まぁ教官の許可が出たし良いのかな……?」
「あは! 余裕そうだね! イノが私に勝てるのかなぁ!?」
ちょっとイロイロと後始末の事とか考えてたら、いきなりヨウちゃんが踏み込んで来る。いやぁ、君のそんな歪んだ笑顔は見たくなかったよ。美少女が台無しだ。
「《オーラフィスト》ォォォッ!」
マナの一点集中もスムーズで、踏み込みのスピードを殺さず、込められたマナ量も良い感じ。
でも、その程度じゃメイ先輩の《甲冑》は破れない。
ヨウちゃんが踏み込む一瞬前には、既にメイ先輩が僕を庇うように割り込んでいた。
止まれない。
ヨウちゃんの拳が、棒立ちのメイ先輩の胸部に激突する。
結果は予想通り。
寺の鐘のような派手な音はしたけど、メイ先輩は
拳の主は、信じられない結果に固まっちゃってる。
「……強撃は一撃離脱が基本。なぜ止まってるの?」
「……ッ!」
咄嗟に後ろへ飛び退くヨウちゃん。遅い。あの強化ゴブリンが相手だったら、捨て身の反撃をまともに喰らってるかもね。
僕はそんな二人の攻防を尻目に、気配を消しつつ獅子堂班の後衛二人に迫る。ヨウちゃんの派手な《オーラフィスト》が目眩ましになるとは皮肉だね。
「……ッ! もう一人が居ないぞ!?」
「ここに居るよ」
僕には武道の心得はない。
なので悪いけど力技だ。後衛とはいえ、マナによる身体強化くらいできるだろ。
真後ろから後頭部を掴んで、そのまま顔面を地面に振り下ろす。
「ガッ!!」
思ったよりも勢いよくやってしまった。
訓練以外では初の対人戦で緊張してしまった……と言い訳することにしよう。まぁ動いてるから大丈夫でしょ。
次に、インベントリから取り出した石を、少し離れた弓使いを狙って投げる。
直撃。
避ける素振りも無かった。驚いた顔をしてたから、自分が攻撃を受けることを考えてなかったのかもね。右肩に命中したし、これでまともに弓も引けないだろ。
メイ先輩をチラリと見ると、次は獅子堂に絡まれてた。
「芽郁! 今日こそお前を超えてやるッ!」
「…………」
能面顔。言葉もない。かなりキレてるね、あれは。
獅子堂が踏み込んで連撃を放つ。その攻撃は洗練されて力強い。ただ《甲冑》を破るほどではないかな?
メイ先輩は獅子堂の攻撃を受け流して、直撃を貰わないように動いている。省エネモードだね。
「イノッ!」
おっと、サワくんか。剣と盾のスタイル。盾にブチかませばそう簡単に大怪我しないだろう。
盾で半身を隠しながら、踏み込んでの突き。なかなかに鋭い。
僕はインベントリから新たな相棒である鉈を取り出し、サワくんの突きの引きに合わせる形で踏み込み、力任せに鉈を盾に打ち付ける。
「ガッ!?」
レベルの差か、体勢を大きく崩せた。
その隙にマナを込めた前蹴りで盾を蹴って追撃。サワくんは踏み止まれず、後ろに転がる。
次だ。
後衛はあそこか。
あれ? あの子は確か、ゴブリン解体ショーの……確か佐久間さんだったかな。横にいるのは堂上君か。二人共ヨウちゃんと同じ班だったのか。奇遇だね。関係ないけど。
僕の狙いに気付いた堂上君が後衛を下がらせて前に立つ。でも、さっきのを見てなかったのか?
構わずにインベントリから石を取り出して……以下略。
飛び散る血。後ろ向きに倒れる体。佐久間さんの顎を砕いた。ごめんよ。恨むなら、バカな獅子堂やヨウちゃんだからね。
……ただ、やはり僕はオカシイ。子供相手にかなり酷い手傷を負わせたのにナニも感じない。いまの一手は効果的だっただろうと思うだけ。はは。自分の異常さをこんな所でも再認識するとはね。前世の記憶においても、暴力を是とするような人生ではなかった筈なのにさ。
「佐久間っ!? くそっ! 何でこんなことに!? 早く回復させろ!」
「や、やってるよ!!」
負傷者を即座に回復させるのは良いけど、動きがぎこちない。実戦慣れしてないな。いや、今まで怪我らしい怪我が無かったのかも。仕方ない。それが学園の方針だからね。
「《スパイク》!!」
後ろからサワくんの突き技スキル。
横に寝かせた剣が、骨の間を縫うように背中から入り、肺を貫通する形で僕を串刺しにする。
「なッ!!?」
いやいや。どうして君が驚く。この結果を望んでスキルを使い、その剣を僕に突き出したんでしょ?
まぁ当然生身じゃなくて《纏い影》による幻影だけどさ。
本体である僕は、既にサワくんの真横に位置した状態。ここから、見様見真似でメイ先輩の掌底っぽいヤツで、隙だらけのサワくんの顎を打つ。
「ごぼぉッ!?」
完全に不意をついたお陰か、かなり強く入って、サワくんは昏倒した。頸椎とか痛めてなければ良いけど。……ここでもナニも感じない。
チラリと確認するけど、堂上君たちにはもう戦意がないね。佐久間さんを庇って動かない。賢明な判断だ。ちゃんと教官にも報告しておくよ。途中で諦めたってさ。勝てない戦いを続ける必要はない。特にこんなくだらない諍いなら尚更だ。
メイ先輩はまだ獅子堂と戯れている。いや、反撃するなという教官の指示を守っているだけか。なら、僕が行かないと終わらないってことか……面倒くさいな。
「……ねぇ。獅子堂はいま、目標だった鷹尾先輩を越えようとしてるんだよ? 邪魔するのはダメじゃないかな?」
「……まだやるの? ダンジョン探索に関して、もうヨウちゃん達に構ってる暇はないんだけど? 話があるならダンジョンの外で会おうよ」
通じないのは知ってるけど、ヨウちゃんに声を掛ける。
「……イノが私達より先に行くなんてあり得ないよ。どうして分からないかな? “光”もないクセにさぁ?」
「いや、人の話聞けよ。電波ちゃんキャラに鞍替え?」
ゆらりゆらりと幽鬼のように、自然体以上に脱力した状態で間合いを詰めてくる。
ヨウちゃん。ここに来て良い動きするね。ちょっと見直した。
鉈の間合いギリギリで止まる……と思いきや、そのまま横にゆっくりと大きく傾いていく。
倒れ込んでしまうかという地面スレスレから、瞬間、バネ仕掛けの人形のように一気に踏み込んで飛び掛かって来る。緩急の差。なんちゃって酔拳か。こっちの世界にもあるのかな?
「《
「はいはい。強い強い」
伏した獅子が一気に獲物に喰らい付くって感じの、飛び込みから両手で同時攻撃か連撃を放つというスキルかな? 残念だけど普通に遅い。
左右の手でヨウちゃんの両手首を掴まえる。
レベル差によるパワープレイだ。この分だと、ヨウちゃんはレベル【六】くらいだろう。既にレベル【一〇】となった僕には通じない。
どうせなら、今の酔拳モドキから、最初に見せた《オーラフィスト》に繋ぐ方がシンプルで良かったかもね。
「ッ!」
手首を固定され、スキルをキャンセルされた瞬間、掬い上げるような金的蹴り。
僕は左手を放し、体を横に流して避ける。ほら、これで右手が自由になったしタメの時間も稼げるでしょ?
金的狙いの左脚が、まるでピッチャーが振りかぶる際の蹴り足となり、その足が振り下ろされた刹那、満を持してヨウちゃんの右拳が撃ち出される。
「《オーーラッッ!! フィスト》ーーッッッ!!!」
「……《纏い影》」
マナによる影を左手に纏い、真っ向からヨウちゃんの一撃を受け止める。先程のメイ先輩の《甲冑》と違って、今度は衝突の際の音はない。
この《纏い影》は割と汎用性の高いスキルで、幻影を作ったり、全身を影で覆って周囲の景色に擬態することも出来る。影を集中して防御的に使うと、衝撃などを吸収する効果だってある。かなり便利。
今のヨウちゃんの渾身の一撃では、一点集中した《纏い影》を貫くことは出来なかったみたいだね。
「ど、どうして……? イ、イノには“光”がないのに……? なんで……なの?」
「…………はぁ」
まだ現実が見えてないらしい。
もう言葉はいいだろう。
僕は両手にマナを集中し、ヨウちゃんの右拳と左手首を瞬間的に握り込んで…………折る。
「ぎゃあぁぁぁッッッ!!?」
絶叫が響く。
:-:-:-:-:-:-:-:-:-:
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます