第14話 お試し
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今日も今日とてダンジョンだ。楽しいね。はは。
ふぅ。気を取り直していこう。
あれから数日。色々あってダンジョンだ。
波賀村理事はダンジョン症候群で来れなかったけど、野里教官、鷹尾さん、執事……もとい、波賀村理事の秘書である
市川さんは記録係で、何やらよく分からないゴツイ機械を背負い、手にカメラを持ち、耳の横にも小型のカメラをセットしている。こっちの世界にもアクションカメラってあるんだね。世界の辿った歴史が違い、ダンジョンなんていう不思議テクノロジーがあっても、大まかには向こうの世界と同じような技術力みたいだ。
「……それで? 僕はどうしたら良いんですか?」
「井ノ崎。お前がナニカを隠しているのは知っている。まずは普段通りに魔物と戦ってもらう。あくまで普段通りだ。小細工はするな。ダンジョン内で“本気”の私を出し抜けると思うなよ?」
「……この間のこと、まだ根に持ってますよね? あれは野里教官が先に手を出そうとしたからですよ?」
「黙れ。こそこそと手の内を隠しやがって。今日はある程度は見せてもらうぞ」
はは。ある程度ね。やはり野里教官は話が分かる。いや、探索者たる者、秘密の一手を持つのも当然だと考えているのかも知れない。
「……私はどうすれば良いですか?」
「鷹尾もまずは見学だ。コイツの戦いぶり……ソロでの戦法を観ておけ」
「分かりました。【ルーキー】の戦法が役に立つとは思えませんけど……」
何だろう? 鷹尾さんにはかなり嫌われている気がする。お互い嫌い合うほど接してないよね? H組のクセに実験に選ばれやがって! とかいう理不尽な逆恨みか?
今回、学園の理事が関与しているということが正式に判明した以上、野里教官を出し抜くとかはもう考えない。ある程度はこちらの情報を出して、素直に協力を仰いだ方が良いだろう。マンネリ化していたダンジョン探索にも少し変化が出るしね。
習熟訓練を兼ねて、クラスチェンジしたばかりの【チェイサー】の戦い方をお披露目しようか。
「では、早速ですが……恐らく六十秒ほどで接敵するゴブリンチームが居ますので、そいつ等を始末しましょう。方向は二時の岩陰付近です。僕は準備があるので行きますから、ここでその様子を見物しておいて下さいな」
そう言いつつ、僕はゴブリンチームの後ろへ周り込むために駆ける。
【シーフ】の二次職として【チェイサー】と【ローグ】が二択で出てきた。
クラスの特性は【チェイサー】が【シーフ】の正統進化系で、【ローグ】は若干攻撃よりに進化という感じだった。ソロダイブが基本である以上、僕は【チェイサー】を選択した。戦い方も今までとほぼ同じで問題ないしね。
クラスの補正なのか、これまでよりも気配を消した際に見つかりにくくなった。五階層で出てくる獣系の魔物にはバレることがあったけど、ゴブリンたち相手だと、先に捕捉されることは無くなった。つまり、五階層までのゴブリンたちなら奇襲がほぼ成功する。
僕は気配を消しながら、ゴブリンたちの後ろへ回り込む。……というか、最後尾のゴブリンメイジの真後ろを一緒のチームみたいに歩いている。本当に気付かないモノなんだね。
斥候代わりなのか、少し距離を開けて先頭を行くゴブリンソルジャーが、教官たちの姿を捉えたようだ。即座に後ろにいる仲間たちに伝えようと振り返ったところで、ようやく僕の姿を目視で確認することになる。
「ギ、ギャーガガーッ!?」
遅い。
騒がれる一瞬前に、距離の近いメイジの首を斬り飛ばす。短剣を振り抜いた後、すぐに逆手に持ち替えて、前に居たリーダーの後頭部に突き立てる。
リーダーの前に位置していたウォーリアがようやく事態に気付いたけど、即座に短剣を手放し、ウォーリアがハンマーを振りかぶる前に、マナを込めた蹴りで喉を潰す。致命の一撃だ。
斥候のソルジャーは、前方にいる教官たちではなく、仲間を殺った僕を標的にしたようで、走って戻ってくる。仲間思いないいヤツだね。
僕としては、ソルジャーが必死に走ってくるのを待つ気はなく、インベントリから取り出した石をぶん投げる。投擲モーションを目にしていただろうけど、恐らく想像より速かったようだ。ソルジャーは避ける素振りをしたけど間に合わず、頭部に直撃を受けて仰向けに転倒した。
特にドロップアイテムもないだろうし、あっても別に今は要らない。リーダーの後頭部に刺さったままの短剣を引き抜いて、教官たちのもとへ戻る。
……
…………
「……と、まぁ、本当の意味での普段通りはこんな感じですね」
「……やはり隠してたか。レベルもだが、お前、もはや【ルーキー】じゃないな? どこでクラスチェンジした? 今の動きは【シーフ】……いや【チェイサー】か?」
凄いな。動きでだいたい解るのか。
「その辺りはご想像にお任せしますよ。普段は五階層で活動している……とだけ言っておきましょうか」
「ふん。どうやって学生証を誤魔化したんだか……まぁ良いだろう。お前がサンプルたちの中でも特殊なのがこれでハッキリした。市川さん、今のはリアルタイムで波賀村理事へ?」
「はい。ここでの記録は、波賀村理事もリアルタイムで確認しています」
ダンジョンという一種の異世界。
そこからの映像や音声をリアルタイムで送るっていうのは、紛れもないダンジョンテクノロジーだろうね。
「……レベルは?」
「え? ……あ、ええと……いまは【八】かな?」
「……そう。答えてくれてありがとう」
鷹尾先輩に聞かれて答えたけど、とてもありがとうって顔ではない。感情が抜け落ちて能面みたいになってるから。更に握りこんだ拳がギリギリ鳴ってるし。何なのこの子? 重度の負けず嫌いか?
「僕はある程度の手の内は晒しましたけど? 野里教官や波賀村理事は何を教えてくれるんですかね?」
「くッ。調子に乗りやがって……。まぁいい。お前になら今後の計画をある程度は話しておこう。改めて後日に連絡を入れる。それで、次は鷹尾だ。今のと同じ芸当をしろとは言わん。一度お前もソロで戦ってみろ」
「……はい。分かりました。別の意味で彼の動きは参考になりませんでしたが……やってみます」
次は鷹尾さんの番か。
想像していた通り、彼女は【剣士】だった。武器は何と日本刀。侍ガールだ。
何でも、実家が古武道を教えている名家だそうだ。柔術、合気道、甲冑術なんてモノまで教えているらしいけど、メインは剣術。剣道じゃない。剣術だってさ。
このご時世にねぇ~って思っていたけれど、こっちの世界では魔物との戦いが現実にあるため、探索者や探索者志望の人たちに向けて、かなり盛況なようだ。異世界のカルチャーギャップがこんなところにもあった。
彼女はそんな家に生まれ、幼いころから剣術を始めとした古武道に親しんできたらしい。五歳のころに受けた親和率の検査により、ダンジョン学園の初等部へ。
そこまでは良かったんだけど、彼女はかなりストイックな性質で、自分にも他人に厳しいというタイプ。元々の能力も周囲より頭抜けていたこともあり、度々摩擦を生じていたらしい。
結果、初等部からの仲間、中等部からの編入組、どちらともあまり上手くいっていないとのこと。全部教官からの情報だけど。
ソロでのダンジョンダイブを希望しているのは、そういう背景もあるようだ。
「あ、ちょうど良さそうなゴブリンたちが六時の方向に居ますね。さっきの戦闘の影響か、こちらには既に気付いているので奇襲はできませんけど……」
「よく気付くな。……あぁ、アイツ等か。ゴブリン三体か。正面からとなるが大丈夫か?」
「はい。問題ありません。そもそも私には奇襲を仕掛けるノウハウがありません。正面からの斬り合いの方が分かり易くて良いです」
戦い方も侍かよ。いや、武士道的なモノじゃなく、元々の性格や性質なのか?
胸当て、籠手という軽装な防具に武器は日本刀の二本差し。脇差と打刀というんだっけ?
相手は片手剣のゴブリンリーダーにそれぞれ、槍と手斧を持っているソルジャーが二体。遠距離の得物持ちが居ない。ゴリゴリの近接戦闘。
鷹尾さんが打刀に手を掛けながら歩いていく。その後ろ姿は美しい。まさに武門の人って感じだ。
ゴブリンリーダーは警戒しているのか、まずはソルジャー二体が先行して駆けてくる。その姿を確認して歩みを止め、抜刀の構えで待ち受ける。カウンター型の戦法か。
先に接敵したのは槍持ち。
ソルジャーが槍を突き出した瞬間、その穂先が斬り飛んだ。居合いというヤツだろう。そのまま歩を進めて、片手で刀を振り下ろしてソルジャーの脳天をカチ割った。斬るんじゃなくて鈍器的な使い方。メッチャ力強い。
刀が引っ掛かったのか、即座に打刀を手放し、手斧のソルジャーは脇差しを抜いて迎え打つ姿勢。……かと思ったらいきなり懐に飛び込んで体当たりした。勿論脇差しを突き立てる体勢で。
こちらも即座に脇差しを手放し、ソルジャーの腕を取り投げる。背負い投げみたいな感じかな?
遅れてきたリーダーに背を向けた状態となり、後ろから斬りかかられるも、軽く身をズラして避ける。完全に読んでいたみたいだ。
空振りして体が流れたリーダーの横合いから、顔目掛けて掌底を打ち付ける。ここから見ても、リーダーの首がズレるのが分かった。致命傷だ。
そして、しばらくは警戒したまま。残心ってヤツかと思っていたら、
三体とも光の粒と消えた後、ようやく刀を回収して戻ってきた。
想像していた以上に、ドッシリと足を止めての接近戦だった。しかも割とパワー型。見た目じゃ分からないモンだね。
どちらかと言うと野里教官もパワー型だけど、基本は動き回りながらの戦闘スタイルだから、かなりタイプが違う。
「班では、相手の前衛を引き付ける物理アタッカーという役回りです。いつもと同じように戦うとあのようになります」
近接での避けタンクみたいな感じかな? ……っていうか、僕、ゲーム的な用語はメチャクチャ覚えてるな。前世の記憶では殊更にゲーマーだった訳でもなかった筈なんだけど……?
「そうか。班での役回りとしては上々だと思う。しかし、ソロダイブでは少し不安が残るな。囲まれた際に血路を切り開くことでしか抜けられない。若干の立ち回りの変更が必要になるだろう」
「……そうですか。確かに、今回は三体でしたが、あと二体多ければ結果は違っていたとは思います」
淡々とした反省会。自分の戦闘スタイルの欠点も分かっているようだ。
「井ノ崎。お前の目から見て、鷹尾の動きはどうだ?」
こっちに振るな。ほら、ギギギって音がしそうな感じでこっちを向いたよ。ホラーだよ。本人の前でこの子について意見なんて言いたくないよ。
「えー良かったんじゃないですかー」
「……真面目に答えろ。悪いが、私の中ではお前と鷹尾を組ませることは確定している。今の内に言いたいことを言っておけ」
くそ。そりゃそうなるだろうとは思っていたけどさ。
「……真面目な話をすれば、確かに僕とはスタイルが被らないから、遊撃と主攻という感じでチームは組めると思います。ただ、教官が言うように囲まれた時の対応を二~三考えておかないとダメかと……。完全ソロのボーナスを消すなら、別に二人じゃなくて、いっそのこと三人とか四人で組んだらどうです? サンプルのメンバーで数が揃わないなら、A・Bから人を募るとか? どうせB組の鷹尾先輩を引き抜くなら同じようなモノでは?」
そうだよ。何もわざわざ二人だけで組まなくても。
「横からすみません。それについては波賀村理事にも考えがあるようです。今週の臨時理事会で議案を提出する予定となっており、結果によっては可能かと」
市川さんがそんなことを伝えてくれた。一応、検討はしてくれているということか。
「……理事会がどうであれ、井ノ崎と鷹尾が組むのは変わらない。……それで鷹尾はどうする? この条件で嫌だと言うなら、山ほど誓約書を書いて終了になるが?」
「…………」
いやいや、なぜ僕には選択肢がないんだよ?
「私は……それで構いません。班の人たちと離れてダイブ出来るなら……」
「そうか。なら何も言うまい。準備にしばらく時間がかかる。事前に言っていたように、この実験に参加するなら、B組は外れてもらう可能性がある。それも承知の上だな?」
「……ハイ。自分を高みへと導くためなら、B組の肩書に未練はありません。家族も賛成してくれるでしょう」
はい? B組外れるってことは、表舞台から外れるってことでしょ? 卒業後に探索者としての登録とかどうなるんだろ? 基本は学園をA・B組で卒業しないとダメなんじゃなかったっけ? あと、家族も賛成って……僕の場合は親への報告とかないよね? 僕への扱いって雑じゃね?
「ええと……結局、僕と鷹尾先輩の二人でダイブするんですか?」
「いや、井ノ崎は今まで通りにソロでダイブしてろ。鷹尾と連携の訓練はするが、正式に合流するのは早くても来年度からになる。お前と違って、鷹尾の場合は準備が必要だからな。その間に精々レベルを上げておけ。鷹尾が合流した後、付いていけないとなったら承知しないぞ」
はいはい。分かりました分かりました。
……もしかすると、僕のこういうところが鷹尾さんの勘に障るのかもね。
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