第11話 マナとスキル
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ダンジョンは広い。
広い上に、階層ごとにフィールドの性質も変わる。洞窟型のいかにもダンジョンというフィールドもあれば、広大な平野、山や川といった自然の地形、火山地帯や豪雪地域、海の上の群島もあれば城塞都市を模した場所など多岐に渡る。
そんな趣きの違うそれぞれの階層間の移動は、階層ゲートを潜ることで行い、この階層ゲートは各所に複数存在する場合もあるという。
また、世界中の各地のダンジョンで共通して、階層が上がれば上がるほど面積が広くなることが確認されている。少なくとも、いま現在判明している限りではその傾向が当て嵌まっている。
ダンジョンによって、構造や出現する魔物の種類に違いはあるも、一〜二階層は大型テーマパーク程度の広さで、三階層からは都市規模の広さとなるのが一般的。その為か、国によっては、最短ルートや階層ゲートの場所などが優先されることも多いという。
結果として、低階層であっても未踏破の部分があり、探索者たちの手によって、毎年のように新たな発見がある。少なくとも日本ではそのようになっていた。……もっとも、その新発見が公表されるかはまた別の話だが。
ダンジョン学園は、国の意向により運営がなされ、日本に存在する四つの大規模ダンジョンに隣接するように都市化している。当然のことながら、公式には学園こそが、何処よりも隣接するダンジョンの情報を持っているとされている。
しかし、それらの情報は、例え学園の生徒に対しても、必要以上に公開されることはない。逆に、学園が公開する情報があれば、それには何らかの意図が込められているとも言われている。
ダンジョン資源が国家運営を左右する以上、それらの情報規制は当然であり、探索者たちも不満を持ちながらも従わざるを得ない状況となっていた。
……
…………
………………
「へぇ。実習は散々な結果だったんだ」
ヨウちゃんとサワくんの実習が終わって数日後、寮で二人の愚痴を聞くことになった。僕もB組のカリキュラムは知りたかったしね。
「結局、学園側の思い通り。『ダンジョン内では、組や班を超えて協力し合わなければ生き残れない』ってことらしい。俺たちの班も頑張ったけど、最後は教官に助けてもらうことになったしな」
「そうそう。全然上手くいかなかったね〜。採取場所なんて見つからないし、初見の魔物はどう戦っていいか分からないしさ。まぁ私は結構楽しかったけどね、【ルーキー:Lvmax】でレベルも【四】にもなったし!」
ヨウちゃんとサワくんの班は課題をクリアすべく、未公開エリアを探索していたみたいだけど、三日目、魔物たちに不意をつかれて乱戦になり、そこで教官が介入して失格となったらしい。
僕は知らなかったけれど、内部進級組ではA・Bはそれぞれに対立と競争を煽られていたみたい。で、いざダンジョンで実習となれば、皆が競争に躍起になったり、対立したり、あるいは衝突を避けることばかりで、周囲の他の班と協力するという視点が抜け落ちていたと……。
まぁ今回の実習、今の段階で優秀な生徒たちに、挫折を経験させる為の仕込みという一面が強かったみたい。学園側は、まともに課題をクリアさせる気は無かったようだ。
今回の実習は、参加した生徒の多くが学園側にしてやられたようだけど、その中で、ヨウちゃんとサワくんの班は、獅光重工の御曹司の班と一時共闘して、主にヨウちゃんが御曹司とお互いに認め合うという王道イベントもあったらしい。この話は野里教官に聞いた。
ゲーム的な展開を考えると……やはりヨウちゃんが主人公なのか? サワくんや獅子堂という御曹司は、パートナーとかライバルキャラのポジション?
まぁ僕はそっちのストーリーには関わらないっぽいから別に良いんだけどね。ヨウちゃんやサワくんはストーリーモードで、僕はエディットキャラのフリーモードみたいだと思っている。
ちなみに、ヨウちゃんは【武闘家】でサワくんは【戦士】にクラスチェンジするみたいだ。ゆくゆく、この二人には専用クラスが出てくると睨んでいる。
「二人の実習の話は分かったんだけど……今日は風見くんはどうしたの?」
「あぁ風見も実習が入ったんだってよ。最近はアイテム工房で遅くまで過ごすことが多いみたいだし、俺もしばらく顔は合わせてないな」
「そうなんだ。連絡はとってるけどそこまで知らなかったよ。……それぞれ、別々の進路を進んでるって感じだね」
向こうの日本での感覚だと、ダンジョン学園の子たちは凄く自立している……いや、自立させられている感じがする。だって、まだ中学一年生の十三歳だよ? いくらダンジョン絡みとは言え、既に就職先まで見据えた教育がなされているのは少し違和感がある。まぁそれがこっちの常識なんだろうけどさ。
……
…………
「で、どこまで進んだ?」
「三階層で、三体以下で編成されたゴブリンたちをチマチマと不意打ちしているくらいですね。まだ、正面から仕掛けて蹴散らすというのはムリです」
ヨウちゃん達が実習を終えたということで、野里教官も戻ってきた。
「…………」
「…………」
何だよこの間は。
「(井ノ崎。コイツにはナニカがあると引き込んだが……やはり“普通”じゃない。
川神のような天性のセンスも、獅子堂のような訓練に裏打ちされた積み重ねもない。
なのに、何故コイツは魔物と平然と戦うことが出来る? 親和率が精神的なショックを緩和すると言っても、戦いの恐怖や自分の手で魔物を殺す忌避感まで無くなる訳じゃない。だが、コイツはゴブリン解体ショーの次の日、躊躇なくゴブリンの脳天に短剣を突き立てた。当時は“サンプル”が手に入ったと浮かれて深く考えなかったが……振り返ると明らかにオカシイ)」
野里教官が思案顔で沈黙してる。まさか《偽装》に気付いた? いやいや、ただの考えごとかも知れない。気にし過ぎるのも不自然になるから駄目だ。
「教官、どうしました?」
「…………あぁすまない、ちょっとな。今後の方針だが、思いの外順調なので、一年の間にクラスチェンジを目指すことにする。流石に
転魂器というのはクラスチェンジの為のダンジョンアイテムらしい。学園で管理され、申請による許可制みたいだから、コッソリ持ち出すのは無理なんだろう。
しかし、五階層にあるクラスチェンジ等を可能にするという不思議アイテムを《偽装》で誤魔化せるのかな? まぁバレたらバレたで開き直るさ。
「クラスチェンジのための石板は、僕がフロアボスを倒さなくても使用出来るんですか?」
「……途中経過は曖昧だが、フロアボスを倒さないと石板の機能は使えない。だから、私がある程度弱らせて、トドメをお前が刺すという形で行く。そのためにはレベル【五】は欲しい。私が来れない時は、三階層でレベル上げをしておいてくれ。流石にレベルアップは確認しなくても解るだろう?」
そりゃ解る。レベルアップは劇的な変化だ。
「えぇ。アレを体感で気付かないほど鈍感ではないですね」
「上等だ。レベル【五】もあれば、五階層のボスにトドメの一撃くらいは通じるだろうからな。一人でダイブする時は、危なくなれば迷わずに帰還石を使えよ。あと、私が居ない時に四階層には決して行くな。魔物の数が一気に増える。ソロでは囲まれるのがオチだ」
レベル【五】への到達に加えて、五階層のクリア(補助あり)。コレが野里教官の考える中等部一年の目標か。
実を言うと、僕は既にレベル【六】の【シーフ:Lv7】だったりする。
これは僕が特別なのか、この世界のダンジョンの特性なのかは分からないけど、完全にソロの時と教官が一緒の時では“経験値”の入り具合が違うように感じている。
今だってそうだ。別に教官と共闘している訳じゃないのに、魔物を倒した際の感じがいつも違う。もしかすると、完全ソロだとボーナスが付く? 少なくとも、他の探索者の話と比較すると、僕はレベルが上がりやすいように思う。
本来の学園のカリキュラムでは、中等部一年でレベル【五】、二年でレベル【六】〜【七】、三年でレベル【八】が目安のようだけど、今の僕のペースなら一年生の間にレベル【八】くらい到達しそうだ。まぁ学園の中等部ではレベルよりもクラスLvやスキルの使い方を重視するみたいだけど。
あと、レベル【一〇】が一つの壁であり、高等部二年の夏までにレベル二桁に到達しないと、A・B組から外されるらしい。しかも割と該当者が多く、学園の教官もレベル【九】が過半を占めるという。
ダンジョンの中で同じような行動をしていても、レベルの上がり具合は人によって差が大きく、その理由は公式には不明だそうだ。
「(とりあえず、年明けくらいまではレベル【四】だと誤魔化しておこう)」
「(コイツ、まだ何か隠している気がするな)」
……
…………
………………
野里教官の前では少し手を抜いている。でも、だからといって余裕がある訳でもない。
三階層では、ゴブリンリーダーを中心とした魔物たちが割としっかりと連携してくる。余程不味い場合は教官の助太刀があるも、基本的には見守りだけ。戦闘自体は僕のソロ対応。
当然囲まれるのは御法度、目の前の相手ばかりに気を取られるのもダメ。先制攻撃の不意討ちから一体ずつ数を減らすのが基本戦法となる。
「(ソロの基本戦法は体で覚えた感じだな。しかし、やけに気配を消すのが上手い。クラスチェンジは【シーフ】系が妥当か? 一撃のパワーが物足りなくなるが……こればかりは仕方ない。他のサンプルと合流した時に役割分担をさせるか……)」
教官は僕の動きを観察しながら思案していることが多い。最初は感覚派の人かと思っていたけど、割と細かいことをチェックしている。たぶん、背後の組織的な所にも色々と情報が流れているんだろう。……流石に悪の秘密結社とかじゃないよね?
そんな事を考えていると、残りはゴブリンリーダーのみとなっていた。粗末ながら片手剣を装備している奴だ。
「教官。注文通りにリーダーを残しましたよ?」
「よし。五階層のボスはホブゴブリンといって、ゴブリンリーダーの上位互換のようなヤツだ。コイツで少し今後の戦い方を教える」
だそうだ。
五階層のボスはホブゴブリン。ゴブリンリーダーより更に一回り大きく、恐らく今の僕と目線は同じで、体格はゴツい感じ。さらに言えば、曲がりなりにも“技”があるようだ。剣を持っていればソコソコの剣術を使い、槍なら槍術。一番厄介なのが弓術で速射や曲射まで使うという。
一応、五階層のボス戦はほとんど教官が対応してくれるらしいけど、このホブゴブリン、六階層からは当たり前のように出てくるみたい。つまり、ボス戦をクリアして先に進んだら、さっき倒したボスが普通にフィールドをウロウロしているという。しかも、普通のゴブリンたちも見た目は同じなのに強化済み仕様。
実は中等部の三年間を通して、生徒だけで六階層へ行くことは禁じられている。六階層のちゃんとした攻略は、高等部での卒業課題というレベル。いきなり難易度上がり過ぎだろ。
「まず、三階層までは攻撃を受けない事が前提のレクリエーションみたいなモノで、四階層からは攻撃を受ける前提の実戦と考えろ」
そう言いながら、教官はゴブリンリーダーの振りかぶった剣をそのまま避けもせずに肩付近で受ける。
すると、ガツっと音がして剣が弾かれた。教官は平服であり、鎧等は身に着けていない。生身に金属の塊がぶつかって出る音じゃない。
「見たか? これが基本だ。体内の
困惑するゴブリンなどお構いなしに説明を続ける。
気を取り直したゴブリンが、今度は突くように剣を出すが、教官は視線も向けずに僅かに身体を逸らし、そのまま突っ込んでくるゴブリンの頭を鷲掴みにして無造作に放り投げる。投げる瞬間、教官の腕が大きくなったように感じた。
「ホブゴブリンは力もさることながら、武器を振るスピードが速い。マナによる強化はタイミングが重要だ。常に強化するという場合もあるが、それでは燃費が悪い。実戦では動きに緩急を付けるためにも、必要に応じて瞬間的に強化する方が有効だ。今、ヤツを投げる瞬間にも腕を強化していた」
かなりの距離を転がったゴブリンが立ち上がり、憎々しげに叫びながら突進してくる。
「……よし、試しにやってみろ」
実践派だね。
でも、何となくは解った。というか多分、普段から同じような事をやっていた気がする。流石に生身で攻撃を受け止めるとかはしてないけど。
ゴブリンが走りながら剣を振りかぶった。まぁタイミングが分かり易いから試してみるか。
左腕にマナを集中させ、盾があるようなイメージで、ゴブリンの剣を前腕で受ける。
ガツリと音がして、ゴブリンの剣撃を弾くことが出来た……けれど、メチャクチャ痛い。
薄っすらと浮かぶ涙を堪えながら、今度は足にマナを集め、ゴブリンの胸辺りに思いっ切り前蹴りを食らわせる。体勢が崩れていたのもあってか、さっき教官が投げた半分程度の距離まで吹っ飛んでいった。
「こんな感じですかね? ……腕はかなり痛かったですけど」
「……筋が良い。腕の痛みは強化が足りなかったからだろう(バカか? 普通いきなり腕で受けるか? コイツ頭のネジが飛んでるのか?)」
吹き飛んだゴブリンはかなりダメージがあったようで、立ち上がるもヨロヨロと足元が覚束無い。
「……あと、さっきの前蹴りのように、マナを一部に集めれば、それがそのまま武器になると言っても過言ではない。【武闘家】の《オーラフィスト》というスキルがその典型だ。例えスキルを会得していなくても、マナの集中によりスキルを模倣することも出来る」
「……拳とかだけじゃなくて、武器にマナを纏って放つことも出来ます? というかソレを自動化するのが《スキル》?」
「あくまで一部の《スキル》ではそうだ。《スキル》の中には特殊な効果が発生するモノもあり、そういうモノはマナの集中だけで模倣は出来ないがな。私には《オーラハウリング》という範囲スキルがあるが、他者がマナの集中で模倣できた試しはない」
そんな話をしていると、ようやくゴブリンが攻撃体勢に入っていた。試しに短剣にマナを纏わせて、ゴブリンの剣を弾く。軽く振るっただけなのに、弾いた剣の遠心力でか、一回転して派手に倒れた。これが人間なら脱臼してるかもね。
「……武器にマナを纏わせるのは、少し慣れが要りますね」
「そうだな。武器を自分の体の一部と認識するとマナを浸透させ易いなどというが……要は慣れの問題に行き着く」
完全に練習台と化したゴブリンが立ち上がってくる。何だか可哀そうになってきた。
「ギ、ギャガッ!!」
前言撤回。
ボロボロになりながらも、醜悪な凶相で飛び掛かってくるゴブリンを見ると、スッと哀れみも消えるから不思議だ。
さっきと同じ要領で、マナで強化した短剣を振り抜く。今度は剣ではなく首が飛んでいった。
「……やっぱり一瞬とは言えタメが必要なので、奇襲一発目以外は要練習ですね、コレ」
「(コイツ。天性のセンスは全く感じないのに、何故こうもアッサリとコツを掴むことが出来る?)」
「(ダンジョン内での超人的な運動機能、スキルという不思議超能力の燃料が
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