第7話

「私の心には大きな穴がぽっかりと空いてしまったまま。その穴は……復讐を終えた今でも塞がっていない……」

 

 ミリアは僕の隣へと腰掛ける。


「何もない。復讐という憎悪すら失った私に残っているものはもはや何もない。復讐のために全ての関係を切ったもの。残っているのは……あなたくらい」

 

 そして、そのまま僕の方へと頭をあずけてくる。


「でも、あなたの中に私は居ない……あなたの心は深い闇に閉ざされている。既に家族も失ったあなたに……何が残っているの?あなたの孤独は……」


「ふー」

 

 僕はミリアの言葉を聞いて深く息を吐く。


「僕はただの剣でありたかった……何の感情も知らない……」

 

 失敗作。

 僕はアレイスター家史上最高傑作であり、史上最低の失敗作である。

 それは、僕に前世の記憶があるから。

 前世の記憶があるからこそ僕はここまで大きく立ち回り、強くなることが出来たが……前世のくだらない記憶が邪魔をして僕に余計な感情を植え付ける。


「ただの剣であれば……だが、僕は剣に成りきれない。でも、剣でなくてはいけない。僕を止められるだなんて思わないでよ?」

 

「わかっております。ただの役使い風情に止められるなんて思っていません。……ですが、お願いです」

 

 ミリアは真っ直ぐに僕の方へと視線を向けてくる。


「必ず……生きてください。決して……死なないでください。お願いします」


「……」

 

 僕はミリアの言葉に対して沈黙で答え……。


「あっ」

 

 ミリアを少し乱暴に退かして立ち上がる。

 

「またな」

 

 僕は今寝泊まりしているエウリアの居なくなった娼館の一室に向かった。

 エウリアは今、僕の領地の方で動いてくれているだろう。

 簡単な教育を僕から受けた……美しいエウリアならうまく民衆をまとめてくれるだろう。


「エルピス様……」


 あぁ……実にくだらない。ムカつく……イライラする。心の底から。

 不甲斐ない……ゴミのような自分に……心底吐き気がする。理解し難い……怪物が。人間が。己が。

 

「……やれよ。ちゃんと」

 

 もはや僕しか居ないのだから。

 全て、アレイスター家のわがままでしかないのだから。

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