第5話
「おじさん。串焼きを一本貰えますか?」
リーリエが串焼きを売っている屋台のおじさんに声をかける。
「おうよ」
それに対しておじさん
「ふふふ。覚えていますか?昔、串焼きを買うのにも怪訝な顔をされたこと。それほどまでに幼かったんですよ?初めて会った時は。私たちも成長しましたね」
リーリエが懐かしそうに呟く。
「……」
あの時とは大きく変わった。
成長し、早くなった歩きで僕達は王都の街を歩く。
「……思ったよりも街の雰囲気は変わらないんですね」
「そうだね」
僕は街を見ているリーリエの言葉に頷く。
「所詮民衆は自分の生活が第一であり……騒ぎなんて一度収束してしまえば、その熱は下火になる」
今、不穏なのは中心メンバーとして動いていた人間だ。
中心メンバーたちは頑張ったからこそなにか明確な成果を求めているのだが、中心メンバー以外の民衆は周りに流されて言う所も多い。哀れな可愛い一人の男のためになれたってだけで十分だったと思っている人も存外多い。
税金も減らしたしね。
「なんかちょっと寂しいですけど……」
「荒れているよりはマシだろう」
「そうですね……あっ」
リーリエの視線がとある一つのお店に止まる。
そのお店は一つの装飾品店。
昔、子供の頃に入った装飾品店とは明らかに格の違う店。
「……入りたいの?」
僕は止まっているリーリエに対して尋ねる。
「今は良いです」
「……」
リーリエのまるで未来があるような言葉を前に硬直する。
「昔……貰った指輪。私はまだ持っているんだよ?大事に……大事に取っておいてあるの。私は既に指輪を貰っているのよ……だから、いらない。当然愛の言葉とともにもう一回指輪をくれてもいいけどね?」
「……」
僕はリーリエの言葉に対して沈黙を返す。なんとも言えない沈黙を。
……なんで僕は指輪なんか上げたんだろうね。
馬鹿だと思う……。
「ほら!そんなところで止まっていないでください」
止まり、黙り込んでしまったリーリエは僕に向かって笑顔を向けて、手を伸ばしてきた。
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