第29話
イロンティア王国、王都。
王城が前。
そこに一人の男が立っていた。
分厚い筋肉でその身を覆い、鋭い眼光を放っている50が近い男であり、立っているだけで周りを畏怖させ、ひれ伏させるほどの覇気を纏っている男。
その体を包むのはこの国の腕利きの職人たちが幾つもの意匠を施した豪華な王衣。
イロンティア王国が誇る賢王、アウベルト・イロンティアその人である。
そんな国王の両隣に控えている一組の男女。
異彩の輝きを放つ鎧を身に纏った男と、魔力を漂わせている油断のならない女……他国にも最強として名を轟かせている騎士団長と魔導士長である。
「諸君」
国王が口を開く。
集まっている民衆の前で。
「ざけんなッ!」
「今更かよッ!!!」
「遅いんだよッ!!!」
「どうなっているッ!詳しい説明を!納得の行く説明を求めるッ!!!」
「我らに自由をッ!!!圧政からの開放をッ!不正を許すなッ!!!」
返ってくるのは罵詈雑言。
賢王として讃えられていたアウベルトの評価は既に地へと落ちてしまっている。
「ふむ……君たちの不平不満も当然のことであろう。我も諸君らの立場であれば同じようなことを不平不満に思ったであろう」
国王の続く言葉。
それは多くの民衆を驚かせた。ここまでストレートに来るとは思わなかったからだ。
婉曲に、不平不満を持っていること事態を非難するような言葉を言ってくると予想していたからだ。
「我が国は今、建国以来最大の危機を向かえていると認識している。国が分裂し、そのまま内乱にまで至る危機すら含んでいる。その分裂の原因は全て、我とエルピスの分裂にあるだろう……そんな危機の中。国王として何が出来るか。その答えを我は用意してきた」
国王の言葉。
それに対して民衆は耳を傾け始める。
賢王として築いてきた信頼と、今の対応がそうさせていた。
「かつて……我とエルピスの父は最良の友であった……そして、我とエルピスは今、最優の友である。我らの運命。それは同じ……小さな少年であったエルピスがその運命に対して逆らったのだ。であるのならば、我も逆らおうではないか」
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