第19話

「……」

 

 僕は無言を保ち続ける。

 ただただ……無言で、暗殺道具の手入れと準備を進めていく。


「やっぱりここにいましたか……」

 

 僕が作業を行っていた部屋に、ミリアが入ってくる。

 

「遅いよ……行動は迅速に、って教えたよね?」

 

 ようやく来たミリアに対して僕はそう告げる。


「……随分と酷なことをおっしゃいますね。元はいきなりリーリエの告白に対して逃げたのが問題でしょう……?」


「黙れ」

 

 僕はミリアの言葉に対して短い言葉で、簡潔に告げる。


「ふー。だめですね、エルピス様は男として……。女の告白くらい堂々と受け止めてみたらどうでしょうか……?」

 

 ミリアは僕に対して苦言を呈する。それに対して僕は顔をしかめる。


「……うるさいよ。堂々と断るつもりだったのに、うまく言葉が出なかったんだよ」


「ふふふ。だめですね。エルピス様」


「ちっ……」

 

 何故かハイテンションなミリアが楽しそうに……嬉しそうに話す。

 それに対して僕は顔をしかめることしか出来ない。


「私は別の部屋での準備をしてまいりますね」

 

「あぁ……そうしてくれ」

 

 僕はミリアに対して力なく告げる。


「……エルピス様。いえ、エルピス」


 部屋から出る直前。僕の方へと振り返り、視線を送ってくる。


「ァ?」


「私はあなたを恨んでいる。私はあなたを憎んでいる。私はあなたを誰よりも憎悪している。……父親を殺した罪を絶対、あなたに償わせる……だから」


 罪を……自分の父親を殺したという罪を僕に断罪するミリア……しかし、そんな僕に向けられるミリアの視線は何故か慈愛に満ち……愛情を含んでいた。

 そこに憎悪の感情など……これっぽちも入っていない。入っているように見えない。




「あなたはずっと私に束縛されるんですよ?」

 

 

 

 ミリアは妖艶に笑う。

 

「……っ」

 

 それを見て僕は唾を飲む……言葉を詰まらせる。


「それでは……失礼致します」

 

 ミリアが僕に向かって一礼し、この部屋から退室していった……。

 な、何なんだよ……。あ、あれは……好意なの?わからない……わからないんだけど。

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