第18話

「じゃ、邪魔だよ……ッ!」

 

 僕はしばし放心した後に、リーリエを引き剥がす。


「私は……何も知らない……ずっと」

 

 リーリエは僕のことを……真っ直ぐに僕の瞳を眺めながら言葉を話す。


「アレイスター家……隣の領地で、小さい頃から一緒だった……それでもあなたについて私は何も知れなかった。……途中からお父様に止められて会いに行くこともできなくなっちゃった……」

 

「……っ」

 

 僕は……敬語の抜けたリーリエの……まるで子供の頃のような声を前にたじろぐ。

 お父様も、お母さんも……カレアも……みんながまだ居て、僕がまだアレイスター家に完全に染まりきっていなかった頃を思い出させる。

 

 あぁ……ウザい、ウザい、ウザい。

 リーリエを見ているとどうしても昔の影がチラついてくる。

 既に捨てたはずの過去を、僕の最良の時代を。

 

 リーリエはそんな僕にも気づかず、まるで僕を思いやるかのように言葉を続ける。


「何もわからない。何も知れない。何も教えてくれない……ずっと口惜しかった……いつか当然消えちゃうんじゃないかって……いつも心配で、寂しかった。私はいつもエルピスくんのことを考えていた……。何も知らない……何も察してあげられなかった私が言ったところで……心になんか響かない……くだらない雑音と切り捨てる……それでも、それでも、それでも……」

 

 リーリエがためらいがちに……ゆっくりと僕の手を握って、優しく撫でる。

 温かなリーリエの体温が僕に伝わってくる。 




「あなたはひとりじゃないよ……昔から私はあなたのことを思い続けていて……好きだった。エルピスくん、好きだよ」




 そして、僕に向かって真っ直ぐに愛の言葉を告げた。

 

「ッ!?」

 

 今更すぎる告白。

 そんなもの

 僕がするべきはその思いを足蹴りにすることだけ……それだけだ。


「……」

 

 なのに僕の口は閉ざされ、何も告げることができなかった。


「……うるさい」

  

 出てきたのはあまりにも弱々しすぎる……小さな言葉。

 僕に出来たのは逃亡だけだった。

 その場から逃げるように僕は転移魔法を行使した。

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