第6話

「あっ……がぁ……」


 僕のすぐ目の前で……お母さんが苦しそうなうめき声を上げる。


「いっ……おごっ」

 

 お母さんの足がジタバタと暴れ、手の爪が僕の腕の肉を削いでいく。

 白目を向き、涙を浮かべ、口からよだれを垂らす。


「おごっ……」


 

 僕の手の中で、悶え苦しむその姿。



『あっ……うっ……』


 

 手を動かし……足を動かし……必死に生へとしがみつこうともがくその姿。



「ぎゃっ……ぉえ……」

 

  

 あの日僕は泣いていた。



『泣かないでください……お坊ちゃま』



 あの日の僕の運命が決まった日の……カレアの死に顔が頭によぎる。

 泣かないよ……僕は。もう二度と。





「おっ……ねっがい……ゆる、して」



 

 

 泣いていた。お母さんは。

 悲鳴を上げていた。お母さんは。

 助けを、命乞いをしていた。お母さんは。



「ひぃあ……」


 

 僕の口から何とも言えない無様な悲鳴が上がる。

 腕に力がこもる。

 

「かひゅ……」

 

 嫌な……聞き慣れてしまった最悪の音が響き……僕の腕を削り取っていた腕が垂れ下がり……足も止まってしまう。

 お母さんの命は今……完全に止まってしまった。

 

「あっ……」

 

 僕の腕からお母さんがこぼれ落ちる。

 地面へと転がった


「……カレア」

 

 僕は空間魔法を使い……カレアを……死体傀儡を取り出す。

 普段、遠隔操作で動かしているカレアを今日は回収して、持ってきていたのだ。


「エルピス様……お母様の死体はいかがいたしますか?」


「……墓地に埋めてやってくれ」


「承知致しました」

 

 僕はカレアを動かして、まるで生きているように振る舞わせ……お母さんの死体を運ばせる。

 このままアレイスター領に持っていこう……。


「ははは」

 

 口から乾いた笑みが漏れ出す。

 

 パチパチパチ

 

 拍手の音が響き渡る。


『よくぞ。出来ました。それでこそ私のアレイスターです』

 

 五賢会が僕に向かって賛辞の言葉を述べる。


「もう良いだろ……?僕はさっさと帰るよ」


『えぇ……構いませんよ。私のアレイスター。これからの活躍を楽しみにしていますよ』 

 

 僕は五賢会の言葉には何も返さず、この場を立ち去った。

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