第5話
「……っ。エルピス」
部屋へと運ばれてきたお母さんが僕のことを見て小さな声を上げる。
「……」
僕はそれに対して無言で……何の反応も取れずにただただ立ち尽くす。
覚悟は決めた……こうなることは予想していた。……しかし、実際に動く事はできなかった。
『どうしたのですか?アレイスター。そこにいるのは国家の敵です。あなたが殺すべき相手ですよ』
「……理解しているよ」
五賢会の言葉を聞いてようやく僕は反応を示すことができる。
僕はポッケに入れていた手を取り出し、お母さんの方へと視線を……態勢を向ける。
『えぇ……そうです。それで良いのです。……アレイスターは私の言う通りに力を振ればいいのです。えぇ……そうです』
五賢会の言葉を僕は無視して、お母さんの方へとゆっくり向かっていく。
「そう……そうなのね……エルピスは……あの人は……その選択を取ったということなのね」
お母さんは諦観の……そして覚悟のこもった声を上げる。
本来、お母さんはアレイスター家に嫁いでくるような人ではなかった。お母さんは子爵の娘であり、ちゃんと教育を受けている人なのだ。
今、どういう状況なのか。理解出来たのだろう。
「私がアレイスター家に嫁いだ日から……普通に死ぬるとは思っていないよ。覚悟はもとより決まっているわ。それも覚悟で……私は愛を貫いたのだから」
あぁ……本当に良い人だよ。
お父様はこんな人に愛されてきっと幸せだっただろう。
僕の人生に幸せは要らない。
ただ終わらせらればそれで良い。……僕はもう疲れた。幸せなんて要らない……何も要らない……何も考えるな。
「だから……良いわよ。殺しても」
「……言われなくても殺すよ。お母さん。まぁ……何も知らされていなかったことに対しては少しだけ不服だけどね」
「……」
僕はお母さんの首に向かってゆっくりと手を伸ばす。
ひんやりとした……それでも確かな暖かさのある……もろく細い首。
「さようなら」
「えぇ……さようなら」
お母さんは……いつものように、優しい笑顔を浮かべた。
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