第2話

 マルジェリアの口から告げられるその言葉。

 僕はそれを聞いて硬直する。

 その言葉は……水に垂らしたインクが広がってくように……僕の中へと染み渡っていく……。

 












「あぁ……」

 

 僕の口から漏れたのは何とも言えない小さな呟き声。

 ただただ呆然と……小さな呟き声だけが、この場に染み渡る。


「は……?」


「なんだって!?」


「エルピス……」


「まさか……」

 

 周りのみんなの声が僕に入ってきては消えていく。

 ただただ呆然と。

 僕はその場に立ち尽くす。何の反応も……取ることが出来なかった

 そんな時。


「……大丈夫ですか?」

 

 リーリエの一つの声が僕の耳に……届く。届いてしまう。。

 僕は反射的に勢いよくリーリエの腕を捕まえて持ち上げる。


「きゃっ」


 一体ッ!!!誰のせいで──────ッ!!!!!

 

「……え?」

 

 ……僕だよ。

 クソが……リーリエじゃない。僕のせいだ。僕の。僕の。僕の。

 僕はリーリエの腕を掴んだまま、彼女のお腹の方へと自分の顔を押し付けて固まる。


「少しこのままにさせて……」

 

 リーリエに向けて、僕は一言をそう告げる。


「……っ。うん。……良いよ。私のお腹の中で好きなだけ泣いて……」


「誰が泣くか……愚か者。お前はただ……動かずにじっとしていれば良いのだ……しばし……な間……」

 

 僕はただただ顔をうずめて沈黙する。

 ……お父様が処刑された……実際に起きたその事実を噛みしめるために。


 それからしばらく……僕は顔を埋め続けた。

 

「もう十分だ」

 

 僕はリーリエの服から顔を上げる。


「大丈夫なの……?」


「十分、って言っただろ……」


 ……もう十分だ。

 最悪だよ。こんな無様を晒すとか。


「しばし……出る……。色々とやらなきゃいけないこともあるからな」


 僕は立ち上がり、呆然としているみんなの横を通り抜けて、生徒会室の扉の方へと向かって歩いていく。


「エルピス……」


「邪魔だよ……」

 

 マルジェリアを押しのけて僕は生徒会室を出ていった。


「……お父様」

 

 僕は一言だけ……クソみたいなことを呟き、廊下をゆっくりと歩いた……。

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