第10話

「なるほど……そのようなことが。魔王様が玉座を追われたとの報告のみ渡され……心配しておりましたぞ」

 

 リガルレインは魔王から今までの経緯を聞いて頷く。


「しかし……反戦派、か。確かに我は反戦派で、ある」


「ッ!ほ、本当のことだったのね……」

 

 魔王がリガルレインの言葉を聞いて驚く。

 ……え?今まで信じていなかったの?それは……結構なショックだよ?割とガッツリとショックだよ?

 

「うむ。……我が魔族一番の反戦派であるという自負がある。……人間界には愛おしの妻に娘が居るからな」

 

 リガルレインが僕の隣に座っているキャサリンの方へと温かなの視線を向ける。


「……しかし、だ。我の配下には主戦派ばかりである。……全員を抑え込むのは困難であろう……我に出来ることなど無いに等しいだろう……我は妻と娘を守ることに全力を……」


「大丈夫、大丈夫。そこら辺はちゃんと僕に考えがあるから。主戦派をなんとかする」


「ほう……考えとな」

 

 僕の言葉にリガルレインが興味深そうな視線を向けてくる。


「別にそんなに難しいことじゃないよ。要は魔族たちに自分たちが戦いを挑めば負けるッ!って思わせれば良いんだよ」


「そんなことお主に出来るのか……?お主は確か対個専門だったはずでは……?」


「そうだね。確かに大勢を相手にするのは得意じゃないかな。……でも、さ。ここには少人数で……相手が異常なまでに強い奴らが居るだろう……?あれらを殲滅すれば良いと思わない?」


「……ッ!?あれに挑むとッ!?」

 

 リガルレインが僕の言葉に驚愕し、立ち上がる。


「まさか……ッ」

 

 それに対して魔王も驚愕している。

 あれ。

 僕が殲滅しようとしている存在。

 それは、魔族たちの間で侵略者と呼ばれている謎の生命体のことである。

 ちなみに謎の生命体って言っているけど、別に謎でもなんでも無い。普通にアレイスター家が作った生物である。

 

 昔魔界で人体実験していたときにできちゃった出来損ないの人工生物が研究所を抜けて暴走、成長しちゃった奴らである。

 

 そんな彼らはこの砦からほど近い森から何の前触れもなく突然ふらりと現れて、暴れまわって帰っていくやばい奴らだ。

 そんな奴らを作ったのがアレイスター家である。うちが一番やばい。


「ふふふ。僕なら何の問題もないよ……?造作もなく、当たり前のように敵を打ち倒してみせるよ。それが僕という存在だからね」

 

 僕は自信満々に告げる。


「……そ、そうか……。だが……!」


「……アレイスター家ってのは、君たちが思っているよりもやばいんだよ?任せてもらって構わないよ」

 

「ふむ……そうで、あるか」


「言われてみれば今更侵略者たちを鼻歌交じりで殲滅したところで対して驚くようなことでもなかったわね」


「……本当に何者なの?アレイスター家って」


「僕に任せてよね。あれを余裕で倒すようなやつから反戦を訴えられたら屈しざる負えないだろう。絶対に勝てないとわかるだろうからね。それに、こっちには魔王にリガルレインがいる。勝負を諦めるよね」


「……まぁ、そうだな。勝てない戦争ほど虚しいものはない」


「そうだよ……だから、僕に任せて?」


「あぁ。そうしようか。エルピスに全て任せよう」


「ありがとう。……じゃあサクッとみんなに見えるように暴れてこようかな」


 僕は立ち上がり、森の方へと向かうことにした。

 行動は早い方が良いよね。

 

 ■■■■■

  

「さて、と」

 

 リガルレインがキャサリンの方へと視線を向ける。

 この部屋には既にリガルレインとキャサリンの二人しかいない。

 他のメンバーは既に部屋から退室している。


「積もる話はいくらでもある……しかし、まず聞きたいのは一つだ」


「ん?」


「エルピスが好きか?」


「ふわぁ!?」

 

 キャサリンの表情がこれ以上無いくらいに真っ赤に染まる。

 そして……キャサリンは遠慮しがちに首を縦に振った。


「そうか……我は応援しよう。さて、それではしっかりと添い遂げるためのアドバイスをしておこう」


「……え?何」


「あいつは誰かを好きになることはまずない」


「……え?」

 

 リガルレインのはっきりとしすぎた言葉を聞いてキャサリンは固まる。


「そして、あいつは他人の感情を理解することもまずない。……暗殺者として動いている時は感情を完璧に理解するのだけど……それでも真の意味で理解はしてないだろう……」


「え?え?え?」

 

「……あれは既に壊れているからな。しかし、だからこその隙がある。……全力で押せ。引くなんて考えるな。押して押して押しまくれ。うざいと思われるくらいに押せ。そうでもしなきゃあいつの眼中に入れない。あいつが感情を理解出来ないからこその戦法だ。あいつに嫌われることだけはありえないからな」


「そ、そうなの?」


「あぁ。そうだ。アレイスター家の人間を傷つけない限りは何をしても笑顔で許してくれる。それがあれだからな……」


「そうなんだ……」


「あぁ。そうだ。お前なら行けると信じているぞ?……なんと言ってもお前は私の自慢の娘なのだから。あいつくらいイチコロだろう」

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