第9話

「さて、と。どうやって侵入するか、よね」

 

 キャサリンの父親、リガルレインが拠点としている砦へとやってきた僕たち。

 魔王がそう呟く。

 竜車は少し遠くに行ってもらっている。もう役目は終わったし、竜車が置かれていたら不自然でしかない。


「あぁ……侵入は僕に任せてもらっていいよ」


 僕は魔王の言葉にそう答える。

 侵入は……僕の得意分野である。


「あら?本当?」


「あなた一人で行くつもりなの……?」


「そんなわけないだろ……僕だけが行っても向こうさんに信じてもらえないよ。最低でもキャサリンが居ないとね……ちゃんと僕一人であっても全員運べるから安心してよ」

 

 僕は魔力を高める。


「そんなことが……?」


「ド派手なのは辞めてちょうだいよ?」


「暗殺者をなんだと思っているの?」

 

 発動するのは空間魔法。


「……え?暗殺者?」


「行くぞー」

 

 僕が暗殺者であることに驚いているキャサリンは放置して空間魔法を発動させる。

 この距離なら……ギリギリ転移出来る。

 転移は個人だけの魔法じゃない。集団を運ぶことだって可能だ。……あまりにも数が多いと無理になっちゃうんだけど。


「ほっと」

 

 僕は空間魔法を発動させる。


「……これが転移の感覚なのね……」


「ッ!……反則じゃない」


「おー!!!すっごいー!」

 

 景色が一瞬で移り変わる。

 これで転移完了である。流石は僕だね。


「む……何者だ?」

 

 侵入者。

 この部屋の主であったリガルレインは侵入者の気配を感じ取って、武器を持ってこちらの方へと視線を向けるべく、体を動かす。


「ッ!?」

 

 ラザリアの体が強張り……。


「パパーッ!!!」

 

 キャサリンが動き出した。


「おぉ!?」

 

 キャサリンに抱きつかれたリガルレインは困惑し、驚愕する。


「……ッ!?きゃ、キャサリンか……?」


 己に抱きついてきた少女……キャサリンを見てリガルレインは震え、声を絞り出す。


「うん!そうだよッ!」


「おぉ……!こんなにも大きくなったのか……」


 リガルレインが感無量と言わんばかりに言葉を告げる。

 ひとしきり震えた後、顔を上げてこちらへと視線を持ってくる。


「魔王様ッ!?!?よくぞご無事でッ!!!」

 

 魔王の姿を見て驚愕し、安堵して。


「お?随分と久しぶりではないか……お前が連れてきてくれたのか……我が娘を助けてくれたとも聞いている……それに我とあやつの文通のやり取りのサポートも……感謝してもしきれないな」

 

 僕の姿を見て懐かしみ、感謝の言葉を告げて。


「……む?お前は誰だ?」


 ラザリアの姿を見て首を傾げた。


「ひどい!……いや、知らなくて当然だけどね?……むしろ逆に知っていたら恐怖なんだけどさッ!!!」

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