第8話

「なんで私が貴方と旅なんかを……」


 ラザニアが僕のことを睨みつけながら、不満げに言葉を告げる。

 別に……ラザリアは来なくとも良かったが……『行く』と言ったので来てもらった。いわゆるツンデレ思春期verと言ったところだろう。


 人手は多い方が良い。

 それに、ラザリアは広範囲を巻き込む大規模魔法を得意とする一学年最強の魔術師。

 しっかりとした戦力となってくれることだろう。

 

 後、なんだかんだ言いつつマルジェリアの元でこの世界の闇、暗さについて学んでいるせいか、サブマやリーリエたちよりも割り切って考えるようになっていた。

 必要であれば人でさえ殺すように……。

 そこまで学んでいるのであれば、僕を毛嫌いする理由なんてないと思うのだが、まぁ……今更僕に謝って仲直りするのが大変なのだろう。


「なんかごめんなさいね……」


 それに対して魔王が謝罪の言葉を述べた。


「あっ!別に魔王さんが謝ることでは……」


「あら、そう?……そう言ってくれるのであれば嬉しいのだけど……」


「はい。魔王さんはなにも悪くありませんから……元々わ、私のわがままで……意地で、その……」


 ラザニアはしどろもどろになりながら言葉を紡ぐ。


「ふへへへ。エルピスくんから誘ってもらった~」


 キャサリンが嬉しそうに言葉を告げる。

 僕の隣で。


 僕、魔王、キャサリン、ラザニア。

 なかなか集まることの無い4人の珍道中が始まっていた。

 そもそも人間と魔族が一緒に行動すること自体がものすごく少ないのだけど。


 今、僕達は馬車に乗って魔界を進んでいた。

 ……代わり映えのない地味な魔界を。


「面白い生物ね……」


ラザニアが僕たちの乗っている場所を引いている生物を見てボソリと呟く。


 馬車。

 今僕たちが乗っているのを引いているのは、馬ではなく、地竜であった。

 これだと、馬車と呼ぶのではなく竜車と呼ぶのが的確だろう。


「人間界だと、地竜の数は少ないものね。地竜は便利なのよ。馬よりも丈夫だし。……速度は馬の方が速いけども、魔界だと速さよりも頑丈さが重要視されるからね」


「魔界は過酷な土地が多いからな……」


「それが魔族が地上を目指す理由なのだけど……」


 魔族が人間界を目指す理由。それはより良い土地を手に入れるためだ。

 魔族は病弱で、寿命が短い。

 その理由は魔族が魔界に住んでいるから、と信じられている。

 丈夫な体を手に入れるために魔族は人間界を手に入れるべきだ……!と考える人は多い。

 まぁ、ただの迷信でしかないんだけど。

 そもそも魔族が病弱で寿命が短いのは、病魔に適応した副作用だし。

 人間界なんてなんの関係もない。


「……そ、そう……」


 ラザニアが魔王の言葉を聞いて何とも言えない表情を浮かべる。


「……私のお父さんは関係ない!って断言していたけどね」


 キャサリンがラザニアに向けてそう告げた。


「えぇ……そうよ。所詮は迷信よ。別に魔界に何か悪いものがあるわけでも……人間界に何か良いものがあるわけでもない」


「本当だよ。ここ、魔界は僕たちアレイスター家が作り、長い間管理してきた場所だよ?……欠陥品みたいに扱わないでほしいね。こんな寂れた場所だけど、魔力が豊富で大地は農業に適していて、気候も安定している。最強の場所を作ったという自負があるのだから。それを否定されるのは癪に触るね」

 

 ここ、魔界は僕たちアレイスター家の実験場であり、最高傑作。

 それをまるで駄目なものとして扱われるのは心底癪に触る。アレイスター家を舐めるなと声を大にして告げたい。


「……へ?つ、作った……?」

 

 僕の言葉を聞いて魔王とラザリアが驚愕する。


「そうだよ……魔界はかつてのアレイスター家当主が作った箱庭なんだよ?……やろうと思えば魔界を消滅させることくらい容易い……」


「っごく」

 

 魔王が僕の言葉を聞いて恐れおののく。魔王は十分アレイスター家の恐ろしさと僕の規格外さを知っている。

 信じざる負えないだろう。

 まぁ……嘘なんだけど。アレイスター家が長年積み上げた来たものを個人で全部壊すとか無理ゲーすぎる。


「ほ、本当に怪物なのね……」

 

「流石はエルピスくん!すっごい!!!」

 

「……ッ」

 

 魔王が恐れ、キャサリンが僕に尊敬の眼差しを向けている横でラザリアが僕を睨みつける。


「あなたは……一体。アレイスター家とは……」

 

 ラザリアは呟く。


「アレイスター家。調べれば調べるほどわからなくなる。何もかもがわからなくなってくる。……一体何者なの?アレイスター家とは」


「ふふふ。今、気にすることでもないよ。どうせすぐにわかる。遠くない未来にアレイスター家という存在に君は近づき……知ることになると思うから」


「そうなの……?」


「うん。そうだとも。アレイスター家については君が今、気にすることではないよ……さて、と。そろそろかな。そろそろキャサリンの父親がいる場所につくよ」

 

 僕は窓の外へと視線を夢絵kる。

 視線の先。

 そこにはとある一つの要塞があった。

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