第32話

「何が……?」

 

 理解出来ないと言わんばかりに魔族の軍団長の男は呆然と声を漏らす。


「舐めないで欲しいよね。……人間だって別に雑魚じゃないんだよね。まぁ、僕が少し特別なところではあるけどさ」

 

 僕は異空間から椅子を取り出して、その場で腰掛ける。


「人間を舐めると痛い目を見るよ……?ということを話してから本題を聞こうか。なんでこんなところに魔族のお偉いさんがやってきているんだ?……暇なのか?」

 

 僕は魔王と……地面で呆然と転がっている魔族の軍団長へと尋ねる。


「ふー。私も少し座らせてもらうわね」

 

 魔王が一言断りを入れてから、魔法で椅子を作り出してそこに腰掛ける。


「……私たちがここに居る理由は簡単よ。簡潔に言うのであれば調査のため。魔族にどれだけの強さがあるのか。それを知るためよ。人類よりも強力であるとされているエルフたちに魔族をぶつけ、どこまで戦えるかを測るため、ね」

 

 魔王がゆっくりとここにいる理由を語り始める。


「……私は魔族が人間界を攻めるのは反対なのよ……くだらない迷信に踊らされ、侵攻し魔族にも被害を出すなんて言語道断よ。ありえないわ」

 

 くだらないと言わんばかりに魔王は吐き捨てる。


「黙れッ!お前は良いかも知れないが我らは……ッ!」

 

 地面に転がっている魔族の軍団長が魔王を睨みつける。


「……」

 

 それに対して魔王は悲しそうな表情を浮かべる。

 魔族。

 彼ら、彼女らは強大な力を持っている。その代わりに、寿命がとても短い。悲しいくらいに寿命が短いのだ。

 そして、体も実に病弱。

 病気にもびっくりするくらい弱い。

 ただ一人。

 魔王を除いては。

 彼女もまた、神に愛された存在の一人。彼女だけは例外。

 魔族の寿命が短く、病弱なのは神の齎した世界魔法に寄る病魔の力に適応したことの弊害……代償だ。

 神に愛された存在である魔王は神によって齎された力の代償にその身に背負わされることはない。

 魔王だけが例外なのだ。


「……本当に魔族は……自分たちが何者なのかを忘れてしまったのだな」

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