第39話

「……少し遅いな」

 

 僕はリーリエを見てボソリと呟く。


「え?そうですか?」


「あぁ。そうだ。タンクだって少しくらいは動けなくちゃいけない。個人的な最低ラインがあるんだが……それにリーリエは達していないな」


「え?」

 

 僕の言葉を聞いたリーリエが硬直する。


「じゃ、じゃあ……」


「うん。ちゃんと訓練を積んだ方が良いかも知れない。……走り込みだね。いってらっしゃい」


「……わかりました」

 

 リーリエは鎧を来たままランニングを始めた。

 

「私はどうかな?」

  

 次に僕の元へと来るのはキャサリン。

 彼女の戦闘スタイルは剣に自身の魔力を流して戦う魔剣士タイプ。

 まだ、魔力排出症が治ってから一週間ほどだと言うのにもうアルミスくらいの実力を手に入れている。

 

「……魔力操作がまだまだだな。キャサリンの魔力保有量は……自分が思っているよりも多い。まだまだ魔力を出せる」


 キャサリンは半分魔族であり、人間とは魔力の保有量がまるで違う。

 だが、キャサリンは人間基準で自分の魔力を考えているのか、全然豊富な魔力を活かせていなかった。


「……魔力操作は後で僕がガッツリと行おう。まずは自分の限界を知ることからだな。大量に魔力を放出しておいて」


「はいっ!」

 

 僕の言葉にキャサリンは大人しく頷く。

 そして、少し離れたところで


「俺はどうだろうか?」


「お前に言うことはないよ。成りたい自分を思い浮かべてそれを目指して自分を鍛えるんだよ。……お前は天才だ。努力が絶対に報われる……なんて普通はあり得ない。しかし、お前だけは別だ。神に愛されたお前は必ず努力が報われる。だから好きなようにしろよ」


「……なりたい自分……」


「ちなみに言っておくが、俺の戦闘スタイルは参考にするなよ。同じ土俵に立ったら一生僕には勝てないぞ」


「……なるほど……確かにそうだな。……よし。俺が成りたい自分のイメージを固めるためにまた模擬戦してくれ!」

 

 サブマは剣を構え、僕に向かって告げる。

 

「ァ?……まぁ、良いよ」

 

 僕は適当にサブマの方を向く。


「いつもどおり魔法禁止でいいな?」


「あぁ。それで構わない」

 

 僕の言葉にサブマは頷いた。


「……私はいつまでこうしていれば良いのでしょうか?」

 

 サブマとの模擬戦を始めようとしている僕の後ろで逆立ちしているミリアがボソリと呟いた。


「一日中ずっとだよ」

 

 頭に血が登っても大丈夫なようにしておくんだよ。

 

 僕は今、ラザリア以外の全員の教官として訓練を行っていた。

 ……最初はリーリエだけのつもりだったんだけど……。

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