第29話

「座らせてもらうぞ」

 

 僕は少女の寝ているベッドの方に向かい、腰掛ける。

 

「……っ」

 

 それに対して少女は驚き、目を見開く。

 ……魔力がなくて動けず、口を開くことも出来ないのであろう。


「ふむ」

 

 僕は垂れ流されている少女の魔力へと干渉し、無理やり彼女に吸わせて強引に循環させる。

 少しもすれば動けるようになるだろう。


「ミリア、茶を入れろ」


「了解致しました」

 

 さっきまでの無様は何処へやら。

 キリッとした無表情でミリアは頷き、キッチンの方へと向かう。


「……自由過ぎるでしょ……」

 

 そんな様子を見ていたラザリアが呆れたように呟いた。


「構わないわ。ほら、皆さんも座って……椅子が一つ足りないわね……椅子はあったかしら?」


「いえ、御婦人。私は座るつもりはありませんので。お構いなく」

 

 ミリアは彼女の言葉に首を振り、淹れたお茶を持って僕の方へと向かってくる。


「あら?そうなの?」


「はい。私はエルピス様の使用人ですから」

 

 ……?僕はミリアを使用人とした覚えはないのだが……?まぁ、ミリアがそう名乗っているのであれば構わない。


「……そう。なら良いわ。じゃあ三人座ってちょうだい」」

 

 キャシーさんの言葉にみんなが頷き、腰掛ける。


「そ、それで薬は……」

 

 おずおずとキャシーさんが話を切り出す。


「こちらです」

 

 それを聞いたサブマがことりと薬をテーブルの上に乗せる。


「こ、これが……」

 

 キャシーさんがテーブルに置かれた薬を見る。


「……はい」

 

 サブマが頷く。


「魔天草で作られた特効薬です。……そうですよね?」


 サブマは僕に向かって尋ねてくる。


「あぁ、そうだな。わざわざ魔界にまで取りに行ったからな」


「……魔界ッ」

 

 僕の言葉を聞いてキャシーさんが言葉を詰まらせる。


「……え?」

 

 その時、小さな、か細いが響く。


「しゃべ……れる?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る