第26話

「怖かったぁ……」

 

 安堵の息を漏らしたミリアは僕の手の中から降りる。


「……え?どこから?」

 

 先に着いていたサブマがダイナミックに登場した僕とミリアを見て困惑しながらも尋ねてくる。


「上から」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええ!?」

 

 平然と告げられた僕の言葉にサブマは大げさに驚く。


「流石はエルピスくんです!」


「……便利な魔法があるんじゃない」


「魔法じゃないよ」

 

 僕は吐き捨てるように告げられたラザリアの言葉を否定する。


「えぇ、そうですよ。……頭がどうにかなりそうでした……魔法だとか、魔道具だとかそんなチャチなものでは断じてありませんでした。もっと恐れろしいものの片鱗を味わいました……」

 

 ミリアの口から告げられる言葉。


「……っごく」


「恐ろしいものの……片鱗……」


「な、 何それ……」

 

 ミリアの口から告げられる、恐怖に染まった言葉に三人は息を呑んだ。


「そんなに恐ろしいものじゃないよ」

 

 僕はミリアの言葉を否定する。


「馬車とかと同じだよ。普通のただの乗り物だ」

 

 そう。ただの乗り物に過ぎない……少しだけ未来の。

 気球が出来るほどの文明力はないけど、この世界。

 ……というか、この世界ってば便利な魔法があるせいで全然科学の研究が進んでいないんだよね。

 非常に由々しきことだと個人的には思っている。


「まぁ、乗り場は小さいし、降りる方法とか特に考えていなし……まぁ、全員で乗るものじゃないから出していなかったんだけどな」


「皆さん乗らなくて幸運だったと思いますよ……あの恐ろしさは尋常ではありません」


「君が高所恐怖症なだけだからね?それで?依頼人の場所はどこ?ここの近くなんだよね?……別に何もないところだけど」

 

 僕は理解しながらもサブマに告げる。


「あぁ……そうだよね。実は、ここにあるんだよ」


「……?」

 

 サブマの言葉にミリアは首を傾げた。

 今、僕たちがいるのはただの森。

 周りが木々に覆われた森だ。この場所に家の姿なんて無い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る