第42話

「なっ……何者だ……」


 辺境伯は警戒心をにじませながら僕に尋ねてくる。

 その手は腰に下げられている剣にまで伸ばされている。 

 ……さっさとその剣を抜いてくれないかな。そしたらすぐに解決するんだけど……まぁ、抜かないだろうけど。


「尋ねているのは僕のはずだが?」

 

 それに対して僕も笑顔で返す。

 しばらくの間僕と辺境伯は睨み合う。

 

「……ちっ」

 

 睨み合いに勝利したのは僕だった。

 辺境伯は視線を外し、舌打ちを一つ。


「私に用があるのはそこの愚娘だ」

 

 辺境伯は顎で僕の隣に座っている生徒会長を示す。


「ヒッ」

 

 それに対して生徒会長の表情が恐怖に染まる。

 ……恐怖に染まる生徒会長の表情。実にそそる。実にそそるものだ。

 でも、生徒会長の表情を曇らせて良いのは僕だけなんだよね……!

 僕は目の前の辺境伯に対しての怒りを募らせる。

 

「私とともに来い。勝手に逃げ出しやがって」

 

 吐き捨てるように告げられる辺境伯の言葉。

 

「それは無理な話だ」

 

 僕はそれを笑顔で却下する。


「彼女は生徒会長である。そして、今。彼女は生徒会室にいる。彼女は仕事中だ。現在の彼女を連れ戻すのは認められない」 


「ふんっ!それでは仕事とやらが終わったらすぐに帰ってくるが良い!」


 僕の言葉を聞いて再び言葉を吐き捨てる。


「じゃあ、生徒会長。一ヶ月くらいここに一緒に泊まろうか」


 それに対して僕も笑顔で告げた。

 会話の対象は辺境伯でなく、生徒会長なのだが。 


「……ッ!!!」

 

 僕の一言に辺境伯は表情を引き攣らせる。

 額には青筋が浮かんでいる。

 今にも僕に殴りかかってきそうである。


「どこまでも……!」


「話があるというのならばここでするが良い。席は用意してある」

 

 僕は足で僕と生徒会長の前の席を示す。

 ……何をやっているんだ。僕は。

 少し、テカっている自分の足を見て僕は内心ため息をつく。

 ……僕は生徒会長に使われ、湿ってしまっている足を上げてしまった。

 まぁ、辺境伯は頭に血が登っていて気づいていないだろう。セーフだ、セーフ。


「……この……ガキがッ!」

 

 辺境伯は勢いよく目の前の席へと座る。


「キャッ」

 

 僕は横で震えている生徒会長を抱き寄せる。


「恐れるな。案ずるな。前を向け……今、自分の横にいる男は一体何者だ?自分の横にいる男を信じろ。答えてやる」 

 

「えっ……あ、うん」


 生徒会長にだけ聞こえるように小さな声で囁く。


「さぁ、お好きに話をどうぞ?辺境伯閣下」

 

 僕は誰よりも寛大に。

 誰よりも話に関わるべきでない僕がこの場を支配し、話をするように促した。

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