第35話
「やぁ、カレア」
僕はカレアが待っている廃墟へとやってくる。
「エルピス様」
カレアは僕の方へと頭を下げる。
「持ってきてくれている?」
「もちろんにございます」
カレアはそう言って自分の後ろに置いていた革で出来たアタッシュケースを僕の方へと渡してくれる。
「よっと」
アタッシュケースを開け、中のものを確認する。
中に入っているのは二つの短刀。
これが暗殺に使う僕の武器である。
アレイスター家は全員自分専用の武器を持っている。
その武器は暗殺の時限定であり、普段は持ち歩くことを認められていないものだ。
アレイスター家が使い慣れている自分専用の武器を持ち歩いていることすら受け入れられない上位の王侯貴族の命令で、持ち歩けないのだ。
「それにしてもなんで僕の方へと依頼が回ってきたんだ?お父様は?」
「いえ……これは紫紺の死神への依頼なのです……」
「あぁ……見せしめってことね」
僕はカレアの言葉に頷く。
暗殺の時、僕は両目の魔法を使わない。瞳が光っているとか、目立って仕方ないだろう。
僕もお父様も、アレイスター家の歴代の人間は基本的に魔法を発動使わず己が技能のみで殺す。
そっちのほうが目立たないし。
暗殺者は基本的には暗殺者が来たことすら悟らせない。
自然死に見えるように暗殺を施すのが常だ。
アレイスター家の秘伝の技として、ナイフや弓矢を使って自然死に見せるとかいう意味のわからない技術も存在しているのだ。
「はい。そういうことになります」
だが、見せしめの意味がある場合、自然死に見せるわけにも行かない。
わかりやすい形で暗殺してほしいのだろう。
『姿なき王』は一般的には知られていないけど、『紫紺の死神』の名は結構知れ渡っている。
『紫紺の死神』は一応アレイスター家とは何も関係ない。普通の野良の暗殺者ということになっている。
「ほいさ」
僕は空間魔法で仕舞った木札を取り出し、視線を走らせる。
依頼内容の確認だ。
「……監禁、拷問もあるのね。一体何をしたんだが」
想像以上にエゲツない依頼内容に僕は苦笑する。
「……エルピス様……それは」
「依頼内容の詮索をしない。これもアレイスター家に課せられている命令。というか、暗殺者ならば依頼内容の詮索などしないに決まっているでしょ?調べたりはしないよ」
僕は立ち上がり、短刀を空間魔法で別空間へと飛ばしていつでも取り出せるようにしておく。
「さて。それでは行ってくるよ」
「いってらっしゃいませ。エルピス様」
「うん」
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