第13話

「それでは……失礼します」


「あぁ。いつでも来るが良い」

 

 僕に向かって頭を下げたミリアが僕に向かってナイフを数本投げる。

 

「ふむ」

 

 僕はそれを少し身をよじらせて回避する。


「しっ」

 

 ミリアは背中に隠してある左腕を動かす。

 それに合わせてとうに僕の横を通り過ぎたナイフたちが僕のほうへと戻ってくる。


「甘いな」

 

 僕はそれらを容易く右手で持っているナイフで弾く。


「糸を使うというのは面白い考えだ。だが、実戦で使えるほどではないな。背中に手をやったところでバレバレだぞ?」

 

 ミリアは投げたナイフに透明な細い糸を括り付けて、左手に持っていたのだろう。

 そして、ミリアは左手で糸を操り、ナイフの機動を自由自在に操って僕の方に向けてきたのだろう。

 面白いが、まだ練度が足りないな。


「……っ」

 

 ミリアは次点の策として毒煙を投げる。

 例え大型の魔物であっても容易く命を奪う強烈な毒が僕の中へと入ってくる。……この時点で普通の人なら殺せているだろう。

 だが……。


「まだ足りないな。これでは、優秀な教育を受けてきた王侯貴族たちを殺せんぞ?」

 

 王侯貴族たちは全員、例え男爵レベルであっても毒に対しては強い対策をしている。この程度では男爵ですら殺せないだろう。

 ミリアの狙いは王侯貴族の中でも上位。

 侯爵以上の貴族である。この程度では全然足りないだろう。


「あまり貴族たちを舐めないほうが良い……親を僕に殺されたお前は知らんかもしれんがな?」


「……ッ!!!」

 

 僕の言葉に……澄ましたミリアの表情に……強い色が、強い感情が映る。


「シッ!!!」

 

 ミリアは大地を蹴り、僕に向かってナイフを振るう。


「この程度の事で動じるな」

 

 僕はミリアのナイフを弾き、足を踏みつける。


「……ッ!?」

 

 踏みつけた足をそのまま滑らせ、僕はミリアを転倒させる。


「ほい」

 

 僕はミリアの首元に靴先から伸びる小さなナイフを突きつける。


「……ッ!」


「少しの音も出すな」

 

 僕は後ろを振り返ることもせずに拳を振るう。


「あぐっ」

 

 後ろの方から何かが落ちる音が聞こえてくるともに僕が転ばしたミリアが霧となって消えていく。


「無駄だ」 

 

 僕は飛んでくるナイフを回避しながら、後ろを振り返る。

 そこにいるのは倒れているミリア。

 さっきのは幻術だ。

 ……僕が教えた幻術魔法。アルミスの十八番でもある幻術魔法をミリアは完璧に使いこなしていた。


「素晴らしい。素晴らしい成長だ。……だが、詰めが甘いな。まだ足りない。その程度では……その程度の刃では届かない。全然な」

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