第5話

「びっくりしたわね」

 

 平然と首を落としたはずのマルジェリアが起き上がってくる。


「ストックがなくなっちゃったじゃない」


「命のストック、か」


「えぇ」


 ……何そのチート。化け物じゃん。化け物の中の化け物じゃん。

 こいつに勝てる人間っているの?

 万全な準備を整えている僕でもそう簡単に勝利できないだろう。


「……君の技術力には目を見張るばかりね」


「そうか?なら更に目を見張るが良い。第十二階位魔法『我が世界』」

 

 花が枯れていく。


「ッ!?」


 それに対してマルジェリアは驚愕の表情を浮かべる。

 暗殺者にとって必殺の技は要らない。必殺の技などすでに持っている。殺せる状況で必ず殺すのなんて当然だ。重要なのは殺せる状況を作ること。


 僕の世界魔法は確実に殺す状況を作る魔法。


 その魔法の効果を応用して作られたのが『魔法の無効化』というもの。

 相手の魔法によって作られた、相手が絶対的に有利な状況をイーブンに持っていくための魔法だ。

 

「これはッ……」 

 

 これによってマルジェリアの世界魔法も命のストックも失われただろう。……再度発動されてはおしまいだけど……まぁ発動させなければ良い話である。


「第十二かい」

 

「遅い」


「……ッ!!!」

 

 もはやすでにここからは僕の間合いである。

 ひたすらに転移魔法で距離を詰め、手刀を繰り返すだけの簡単なお仕事だ。

 僕が投げる短剣は全部結界で防がれるし意味はあんまりない。


「なるほど……ッ!これはッ!!!やばいわねッ!」


 渦巻く。魔力が。

 マルジェリアを中心に。……何をしよう、と?

 いや、そんなのを考える必要はない。さっさと終わらせてしまえばいいだけだ。


「……ァ?」

 

 僕が再び転移をしようと動いた時……転移は発動しなかった。


「……ッ!?」


 なぜかはわからない。

 だが、やばい気がした。

 僕は直感を信じて地面を蹴る。

 急いで横に転がった僕。そんな僕が元いた場所に超高温の熱線が降ってくる。


「……ッ」

 

 やっば……あのまま立っていたら死んでいたかもしれない……。


「……なる、ほどね」


「ふふふ。この学院は私の城であり、王国なのよ。これくらいのことはしているわ」

 

 不敵に笑うマルジェリア。

 そんな彼女を横目に僕は空を眺める。

 いつの間にか浮かび上がっている超巨大な魔法陣を。

 第十二階位の超大規模魔法が幾つも張り巡らされている。

 ……範囲はこの学院中全体。僕の世界魔法の範囲外からの大規模魔法のため、無効化出来なかった。


「はぁー。……こりゃ無理だな」

 

 僕は苦笑し、両手を上げた。

 これ以上は無駄だろう。

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