第56話

「エルピス様」

 

 お坊ちゃま。そう呼んでいたカレアは、僕がエルピスの名を貰ったときからエルピス様と呼ぶようになっていた。


「あ、カレア。久しぶりだね」

 

「はい。お久しぶりにございます」

 

 僕が町中を歩いていると、30分くらいずっとついてきていたカレアが話しかけてくる。


「元気してた?」


「はい。ご心配いただきありがとうございます」

 

 カレアが僕の横で小さな声で話す。

 

「それで校外学習の魔物の件ですが、今年はエルピス様に集めてほしいとお父上が」


「ん?僕がやるの?」


「はい」


「わかった」

 

 僕はカレアの言葉に頷く。

 いつもは校外学習の魔物を集めるのは僕ではなく、お父様なのだ。……当主がやる決まりのはずだけど……お父様も忙しいのかな。


「集める場所はいつもの魔界で良いんだよね?」


「はい。もちろんにございます」


「わかった。任せて。僕がしっかりと集めてくるから」


「はい。よろしくおねがいします」


「ん」

 

 僕は少し道から離れ、人通りが少ない場所へと移動する。

 カレアはそのままどこかへ歩き去っていく。カレアと僕の話し声は小さく、周りの人には聞こえない。

 僕とカレアが接触し、会話したことを誰も気付け無いだろう。

 それだけの技術が僕とカレアにはある。

 そんなことを考えながら僕は魔力を高め、魔法術式を描いていく。




「『世界移動』」



 

 そして、僕は空間魔法を発動せて、別世界へと転移した。

 視界ががらりと変貌する。 

 さっきまでいた王都の街がなくなり、辺り一帯が森林へと変わる。

 青かった空は紫色に染まり、大地は赤く染まっている。

 立ち並んでいる木々も大きく、そしてどこか歪で恐ろしい。

 天上には大きな月が輝き、どこからか雷の音が聞こえてくる。

 僕はさっきまでいた王都とは似ても似つかない。というか僕がさっきまでいた世界にこんな場所はないだろう。


 この世界。僕がさっきまでいた世界とは別の世界。

 人間が多く住んでいる世界の裏側。

 そんなものが存在している。

 そこの名は魔界。

 多くの魔物と魔族が住まう場所。魔王が誕生し、魔王軍の本拠地がある場所だ。

 

「んっと」 

 

 ここには数多くの魔物がいる。アレイスター家は魔界で魔物を集めているのだ。


「さーて。やろうか」

 

 僕は空間魔法を使って辺り一帯の魔物を感知。強さを計り、校外学習に使えそうな魔物を探して集めていく。

 生徒会長も一生懸命魔物を探している頃だろう。

 

 アレイスター家としてしっかりと『仕事』をこなさなくては。


「『ほい』」

 

 僕は対象となる魔物に魔法をかけ、自分専用の別世界へと送り込んだ。

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