第30話

「私は特殊魔法に分類される回復魔法を第五階位までなら使えるんです。……エルピスはどこまで使えるんですか?」


「あ……あの……昨日は助けてくれて……ありがとうございました……」


「くくく」


 僕の耳元に聞こえてくるのは一生懸命に話しかけてくるリーリエと主人公の声。

 そして、二人の声を無視し続ける僕を見て笑っているアルミスの声だ。

 ……アルミスも人のこと言えないくらい性格悪いよね?ねぇ?


「……」

 

 僕は沈黙を保ち続ける。


「ねぇ」


「あの……」


「……」

 

 なんで……なんでこんなことになったのだ……!ちょっと僕ってばドジりすぎじゃないか?……いくら仕事モードじゃないからと言って……。

 どうしよう……マジでどうしよう。

 

 学園神楽フォーリンラブの主人公。

 エロゲの主人公というのは大体モブ顔か、イケメン。

 学園神楽フォーリンラブの主人公はイケメン側の主人公である。

 なよなよとしている高身長イケメンくん。それが、学園神楽フォーリンラブの主人公だ。

 侯爵家の人間でAクラスの中では最弱に近いような状態でスタートする。

 ある日、カツアゲの対象にされた主人公は、ラザリアとリーリエの二人に助けられる。そこで、主人公はこの二人に憧れ、強くなろうと奮起する!

 というのが最初の導入である。


 ……その導入を僕が思いっきり変えてしまった。

 ガッツリと変えた。びっくりするくらいガッツリと。

 主人公とメインヒロインで二人の出会いも潰したし、憧れも潰した。

 

「くくく。なぁいつまで黙っているんだ?」

 

 沈黙を保っている僕を見て楽しそうに告げるアルミス。


「……お前も僕のこと言えないだろ……」


「別に俺はサディストじゃねぇよ。別に人をからかう以外でも楽しむ方法なんていくらでもあるからな。……今は何もすることがないからな……お前を見て楽しませてもらうしかないんだよ」

 

 僕とアルミスは近くでちょこまかしている二人に聞こえないようにコソコソ話を始める。


「はぁ?僕にも人をからかい、嘲笑う以外にも楽しむ方法あるけど?」


「ほぉ?お前に?あんの?そんなもん。……甘味食べる以外で」


「あるよ?セッ◯ス」

 

「……」

 

 僕の一言を聞いてアルミスから表情が消え失せる。


「お前、俺について知っているんだよな?」


「もちろん」


 僕は笑顔で答える。


「死ね」

 

 アルミスも笑顔を返してくれた。

 うん。やっぱり笑顔って良いよね。

 ……はぁー。

 どうしょうかな……この二人……あっ。


「ねぇ」

 

 僕は良いことを思いつき、二人の方を向いた。

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