第22話

「……何」

 

 僕は心底嫌そうな表情を浮かべて、声をかけてきたほうを向いた。

 そこにいるのは一人の男。……確か子爵の男だったか?確か……パスタくん?

 ……いや、絶対にこんな名前ではない。はっきりと分かる。

 だが、思い出せない。


「貴様!何様のつもりだ!公爵家であるリーリエ様の言葉を無視し続けるとは!アレイスター家の分際で!」


 一応アレイスター家は侯爵家なんだけどね?


「へぇー。面白いこと言うじゃん」

 

 僕は空間魔法を発動させる。

 短距離転移魔法。

 マジでちょっとしか飛べない上、魔力消費がバカみたいに多くて普段使いは出来ないクソ魔法。

 だが、驚かしたりするのには実に使える。


「でもここは実力主義。強いやつが正義なんだぜ?」

 

 僕はパスタくんの後ろへと転移し、強引に肩を掴み耳元で囁く。


「ッ!?」 

 

 パスタくんは慌てて僕から離れる。


「そんなに逃げてどうしたの?ビビってしょんべん漏らした?」

 

 僕はヘラヘラ笑いながら、パスタくんの方へ一歩一歩近づいてく。


「……何だ……?お前は俺よりも強いとでも言うつもりか……?落ちこぼれの恥さらしであるアレイスター家のくせにッ!」


「くくく」 

 

 僕はパスタくんの言葉に笑顔で返す。


「なんとか言ったらどうだ!?アァ!?」

 

「な・ん・と・か」

 

 僕はウザったく、笑いながら告げる。


「貴様ッ!!!」

 

 パスタくんは我慢ならんと言わんばかりに拳を握り、僕の方へと向ける。


「ふっ」

 

 笑みを。

 僕は笑みを浮かべる。……暗殺者としての笑みを。


「……ッ!!!」

 

 パスタくんは拳を途中で止め、呆然と僕のことを眺める。


「な……な……な……ふんッ!」

 

 パスタくんは僕に対して背を向ける。


「お前のような落ちこぼれとわざわざ戦うか」


 吐き捨てるような一言。


「アハッ。なぁに?逃げるの?」

 

 それに対して僕は煽るように言葉を続ける。


「逃げるわけじゃない……お前のような雑魚に俺の手を煩わせるのが馬鹿馬鹿しいだけだ」


「そぉ?ただただ君がビビって逃げただけにしか見えないよ?あ……漏らしたらかトイレに行くの?じゃあ……仕方ないね。オムツを取り替える時間を邪魔しちゃ悪いしね」


「誰が……!これは俺がお前にかけた温情だ!誰がお前なんぞにビビるか!漏らすなどもってのほかだ!」


「温情?誰もそんなこと望んでないよ?……逃げるための言い訳はそれだけ?他にはないの?」


 僕は笑顔のまま言葉を綴る。


「僕は君の前に立っていて、君は僕に背を向けている。これを逃げると言わなくて何を逃げるというの?」

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