第17話

 いきなり僕へと向けられたその声。

 それには実に聞き覚えがあって……。


「いや、知らん」


 僕は反射的にそう答え、その場から逃げるべく背を向けた。


「待ってください!」

 

 そのまま去ろうとした僕の袖が掴まれる。

 これは……逃げられないよね。


「ちっ」


 舌打ちを一つしてから後ろを振り返る。

 そこにいたのはきれいな女性。

 腰まで伸びたきれいな金髪に、宝石のような碧眼を持った可愛い少女。

 実に見覚えがある少女だが……目の前の少女は僕の記憶の中のその子よりも成長している。

 ……特に胸が。すっごく大きい。

 そして、目の前の少女は実に良く見ていた……前世でね!


「リーリエです!……昔はよく……!」


「悪いけど僕は刹那主義なんだ。一年会っていない人間は忘れるんだよ」

 

 リーリエ。

 まだ僕がこの世界が『ゲームの世界』だと認めていなかった頃に出会った少女。

 そんな彼女は……公爵家の娘であり、ゲームのメインヒロインの一人でもある。

 僕ができれば会いたくない人に分類される、そんな子だ。 

 ……あの頃は迂闊だった。リーリエが忘れていることを願ったが、どうやら忘れてはいないようだった。

 クソッ!神は死んだ!もう二度と祈ったりするか!


「そんな……!」

 

 僕の言葉にリーリエが悲壮な面持ちとなり、その瞳には涙すら浮かんでいる用に見えた。


「誰かは知らないけど……もう良いか?」

 

 裾を掴んでいるリーリエの手を払い、僕は背中を向ける。


「何よ?あなた」


 そしてそのまま立ち去ろうとした僕の前に一人の少女が立ちふさがる。

 肩まで伸ばされた鮮やかな水色の髪に水色と赤色のオッドアイを持ったツリ目で気の強そうな女の子。

 彼女の名前はラザリア。

 ゲームのメインヒロインの一人で、ツンデレ貧乳キャラだ。友達思いの奴で、ちょいちょい暴走するキャラだ。……見ている分には良いが、実際に巻き込まれるとか……最悪だな。


「何のようだ?」

 

 僕はそんな彼女に対して胡乱げな視線を向ける。


「あの態度は良くないでしょ!」


「は?いきなり知らない女に話しかけられたらあんな態度にもなるだろう?」


「ひぅ」

 

 僕のぞんざいな言葉に後ろのリーリエが悲痛気な声を漏らす。


「あなた……!」

 

 それを聞いて目の前の彼女も目くじらを立て、怒りの表情を浮かべた。


「いい加減嘘をつくのは辞めなさい!リーリエを不必要に傷つけて何をしたいの!」


「ちっ」


 僕は舌打ちを一つ。

 ……こいつの魔眼は僕の嘘でも見抜くか……アレイスター家に受け継がれている仮面が欲しい。

 ラザリアは魔眼と呼ばれる特殊な瞳を持っていて、色々なことが出来るのだ。嘘を見破るのもその一つだ。

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