第9話

「おじさん、串焼き一本貰えますか?」


 僕は串焼きを売っている屋台のおじさんに声をかける。


「おうよ。……ん?子供が二人か?親はどうした?」


 おじさんは僕たちのことを見て怪訝そうに尋ねてくる。

 まぁ、明らかに金を持ってそうな小さな子供が二人だけでいるとか怪しいよね。


「僕たちの親は商会のお偉いさんでして。商売のためにここに来ているのですが、商談の間は街を散策するように言われているんですよ。……多分少し離れたところに護衛もいると思いますよ」


 僕はあらかじめ用意していた言い訳を告げる。

 ちなみにだが、今の僕は変装中。この街の領主の息子であることを見破れる人はいないであろう。 


「この領地に商売、なぁ。……いやぁ、当然こんなこと聞いて悪かったな。ほら。商品だ」


「ありがとうございます」

 

 僕はおじさんから串焼きを二本もらい、一本をリーリエに渡す。


「わー、ありがとうございます……こ、これが串焼き」

 

 リーリエは生粋のお嬢様なのか、串焼きなんて食べるのは初めてらしい。……一体どんな食生活を送っているのやら。

 僕は目を輝かせ、美味しそうに頬張るリーリエを横目に串焼きを頬張る。

 

 うん。

 美味しくはないな。

 肉は硬いし、ぱさついている。味もお世辞にも良いとは言えない。

 まぁ、地球の文明レベルで生きていた僕の肥えた舌を満足させられるような食事はなかなかないだろうから仕方ないことだが。これが普通だ。


「なるほど……これが市井の味!こうして街を自由に歩くなんて初めて!」


「へぇー、普段もでかけたりしないの?」


「うん!出かけるときは大体守ってくる人がいるし、私が街に行ったらみんな頭を下げるから……」


「ま、それもそうか」

 

 貴族相手に平然と商売を行う一般人はいないわな。


「あ!」


 リーリエが小さな装飾品店の前に止まる。

 

「ん?見に行くか?」


「はい!」

 

 僕の言葉にリーリエは頷き、中に入る。

 中に置かれているものはどれも安物の装飾品だ。貴族であるリーリエが見てもしょぼいものしか無いと思うが、それでもリーリエの瞳は輝いている。


「せっかくだし、何か買ってあげるよ」

 

 僕はリーリエにそう告げる。


「ほんと!」


「うん。どれが良い?」


「選んでほしい!」


「ん。わかった」 

 

 僕は適当に小さな安物の指輪を手に取る。


「これでいい?」


「はい!」

 

 リーリエは僕の言葉に元気よく頷く。

 僕は店主にお金を払って購入し、リーリエに渡してあげる。


「おぉー!!!」


「じゃあ、帰ろうか」

 

 そろそろ会談も終わっている頃だろう。


「はい!」

 

 僕はリーリエを連れて、屋敷へと戻った。

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