第8話

「お坊ちゃま。ご当主様がお呼びです」


 カレアさんが僕に向かってそう声をかける。 


「あの人が?」


 それに対して怪訝そうな声を上げる女性。……それは、僕の母親である女性だ。


「はい」

 

 カレアさんはお母さんの疑問の言葉に対して頷いた。


「そう……」


 それを聞いてお母さんは残念そうな声を漏らす。 


「じゃあ、行ってくるね。お母さん」


「わかったわ……」

 

 僕は気落ちしているお母さんを置いて席を立った。

 ……なんか申し訳ないけども、お父様が呼んでいるのであれば仕方ない。

 

 今、僕はお母さんと久しぶりにお茶していたのだ。

 実は僕は結構忙しいのだ。訓練とか、勉強とかで。なので、あまりにお母さんと交流することは少ないのだ。

 お母さんも社交界とかでやらなきゃいけないこととか結構多いからね。

 

「じゃあ行こうか」


「……はい」

 

 テーブルに置かれているお菓子へと手を伸ばした僕を見て若干眉を潜めるカレアさん。しかし、それ以上のことは何か言ってこない

 僕とカレアさんは歩き始めた。


 ■■■■■

 

 僕とカレアさんは応接室の前にやってくる。

 そして、お父様が応接室に入る扉の横に立っていた。……な、なんで?


「おい」


 お父様が低く、威厳に満ちた声で僕に尋ねてくる。

 

「はい。何でしょうか?」


「お前は我が家の秘伝の薬を他者に譲渡したか?」


「え?」

 

 僕はお父様の言葉に疑問符を上げる。

 ……なんでそのことを知っているんだ?いや、でもまぁ別に後ろめたいことでもない、よな?渡しちゃ駄目とか言われていないし。


「その、何か問題だったでしょうか?」

 

「いや、そういうわけではない。ただの確認だ。そうか」


「それで、何故そのことをお父様が知っているのでしょうか?」


「お前が秘薬を与えた相手は隣の領主のご令嬢さんだ」


「へ?」

 

 僕はその言葉に驚きの表情を浮かべる。


「いついかなる時であっても平常心であれ、そう教えたはずだが?」


「すみません」


「まぁ良い。……了承した。お前が渡したというのであれば何も問題はない。今、この領地に領主とご令嬢さんが来ている。領主には俺が応答するが、ご令嬢さんの方はお前に任せる」


「承知しました」

 

 僕はお父様の言葉に頷く。


「当然護衛としての役割も兼ねている。こなせるな?」


「もちろんです」


 僕はお父様の言葉に頷いた。


「それなら構わない。少し待て」

 

「はい」


 僕はお父様に言われていた通りでその場で少し待つ。

 それにしてもそうかー。リーリエは貴族のご令嬢だったんだ。よくもまぁご令嬢がこんなところにまで来たもんだ。死んでいた可能性もあったぞ?

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