第7話

「しっ」

 

 僕は特殊な歩行術で距離を詰め、パンチを繰り出す。

 殴った瞬間を悟らせないつもりで打った僕の一撃。


「遅いです」

 

 しかし、僕の渾身のパンチはあっさりと受け流され、そのまま足を引っ掛けられ姿勢を崩される。


「……こなくそっ!」

 

 姿勢が崩れた僕は強引に足を上げる。

 最後の悪あがきだ。

 

「無駄ですよ」

 

「あぁー」


 そんな苦し切れの僕の蹴りなんかが届くはずもなく、あっさりと足を掴まれてそのまま僕の体を持ち上げられてしまった。


「負けたぁー」

 

「恐ろしい速度で成長はしてはいますが、まだ私に勝てるほどではありませんね」


「あぁ、残念。ところでそろそろ下ろしてくれてもいいんじゃない?」


「あ。そうですね。今下ろしますね」


「ありがと」

 

 僕は宙ぶらりんの状態から地に足をつけた状態へと戻る。


「ふぅー」

 

 僕は息を大きく吐き、へたり込んだ。

 

「お疲れさまでした。お坊ちゃま」

 

 カレアさんが僕にタオルを渡してくれる。僕はそれを使い、自分の汗を拭った。

 残念ながらカレアさんはまだ汗をかくほどの運動をしていない。僕がクソ雑魚すぎて、そんなに動かす事ができないのだ。

 いつかはカレアさんに死ぬほど運動させ、汗だくの状態にして匂いを堪能するんだ。


「……それにしてもものすごい成長速度ですね」


「まぁね」

 

 僕はカレアさんの言葉に自身満々に頷いた。

 今、僕とカレアさんがしていたのは格闘戦の訓練である。僕は八歳にして本格的な格闘術を学んでいるのである。

 

 どうやら、僕が生まれた家。アレイスター家は暗殺などを生業とする裏の貴族らしかった。そのため、幼少期から子供に過酷過ぎる訓練を強いているのだ。

 僕が訓練を初めたのは6歳の頃である。

 

 人を殺すために格闘術を学ぶ……いずれ……誰か、人を殺すことになる。その事実は僕を震わせた。

 しかし、慣れてしまった。

 やっぱり人間というものはいくらでも残酷に慣れる生き物のようだった。

 

 父親が時折血まみれで帰宅し、時折人の死体を運んでいて……そして、他人に対して拷問をかけている、そんな状況を見続けていれば慣れもするというもの。


 正直に言って、日本人時代の倫理観の半分はバーストしている。そもそも前世で僕は16歳、高校生で死んだのだ。前世で生きていた頃の半分の長さをここで過ごしているのだ。

 段々と日本人時代の感覚とかは抜けてくるよね。


「さて、今回の問題点ですが……」

 

 カレアさんは僕に向かって、この模擬戦で僕のどこか悪かったか、それを延々と話し続けた。

 

 ……全然駄目やんけ。

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