第4話
まずは周辺を歩いて散策を始めることにした。
夜では周辺の状況が不明瞭になる為、早朝と夕方の日が暮れる前の二回。
場所が墓地である為、あまりにも墓石周辺を彷徨いていては、近所の人間に不審がられるだろうから、手帳をポケットに突っ込み、散歩の様相で見て回る。
事情を説明出来れば良いのだろうが、まあ、まず無理であろう。
それどころか返って見回れなく恐れがある。
そんな訳で、僕は仕事探しは優先しつつ墓地周辺を散策した。
◇◇◇
散策してみて気になったのは、白い丸い小石の様に見えるものが地面のあちこちにばら撒かれていることだった。手に取って見ようかとも思ったが、墓地から獣道を抜けると畑が多数あり、何かの肥料では無いかと思った。
農作物のアレコレに関しての知識は乏しいが、似たようなもので、肥料だと聞いた記憶が薄っすらとあったのだ。数日は特別何も進展は無く、日々鴉の話し声を聴きながら散策を続けた。
◇◇◇
状況が変わったのは、その日、僕は家にいたが、他の人員は出払っており、誰も居ない状況から、昼間に墓地付近へ出かけた時だった。
僕は杉の木に抉られた様な跡があることに気が付いた。
墓石に何かされているのでは、という固定観念があった為、杉の木をまじまじと見ることは無かったのだが、昼間のもう本格的に夏が来る季節、カンカン照りの凶悪な日差しを受けた杉の木の目線より少し高い位置が木の表面が剥げてベニア板の色をした剥き身の木が光っていたのだ。
その木の下には、僕が肥料かと思っていた白い小さな石が散らばっていた。
「……何だろうね、これ」
僕は誰に描けるでも無い独り言を呟いて、件の小石をしゃがみ込んでマジマジと見た。一見した印象はゴムで出来た玉。
玉。
脳裏を過ぎたのは、「B B弾」と呼ばれる、拳銃を模した玩具だった。
現在の若者がそう呼ぶかは知らないのだが、玉と本体を含めて、僕の中では「 B B弾」だった。詳しくは解らないが、確か玉はオレンジ色をしていて、プラスチックだった気がするのだ。
僕は遂にその物体をしゃがみ込んだまま手に取った。
プラスチックでは無い。
真っ白では無く、繋ぎ目の様なものがあった。
僕の手は感触というものを上手く感知出来ないので、何と無くでしか表現出来ないのだが、やはりゴム製?の様な気がする。
それから、重いという程でも無いが、プラスチックのあのオレンジの玉に比べて重量がある気がするのだ。
これは何なのだろうか。
やっぱり何かの肥料だったり野生の生き物が墓を荒らすのを防ぐ為の薬剤か何かなのだろうか。
しゃがみ込んでブチブチと考え込んでいると、近所の青年が僕に声を掛けてきた。
「具合悪いん?」
確かに日差しを一身に受けながら蹲っている人間がいたら不審に思うだろう。
彼は僕が具合が悪くて動けなくなってしまったのかと思った様だった。
僕は大丈夫だと告げた。
不審に思われて散策出来なくなっては困るのだ。
青年はそれなら良かったと告げ、僕の掌に乗る白い玉を指差した。
「エアガンの玉でも集めてんの?」
僕は驚いた。
エアガン。
そうだ、 B B弾は昨今のニュースでエアガンとも呼ばれてたではないか。
人に向けて撃って怪我をさせただとか、確か携帯のニュース記事になっていた筈だ。ネット環境がゼロに近い僕は、携帯のニュースサイトを見るにもデータ容量が足りず苦心していた。もちろんテレビは無いので見ていない。
僕は彼にエアガンというものについて尋ねることにした。
「その、杉の木に穴みたいな跡が沢山あるから、何だろうと思ったらこれが木の下に沢山あって。その、僕は「 B B弾」っていうオレンジの玉のやつしか知らないんだけど、君のいうエアガンってこういう玉を撃つやつなの?」
完全にコミュ障の質問を僕は彼にしてしまった。
しかし彼は笑って言った。
「ガスガンなんじゃない?改造したりすれば威力は凄いと思うよ。例えば鳥とか猫とかなんかは、狙い定めて至近距離からだったら、多分、殺せる」
普通はそんな馬鹿な真似する愛好家は居ないけどね、と。
◇続
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