第十九話 魔性国 その一
「佳奈さん、どうしてここにいるのですっ」
呪縛を振り払って、私は佳奈さんを問いただそうとする。
龍二のメイドに化けていた佳奈さん。
最初に会ったときは担任教師。
でも、今目の前にいるのは……。
「お迎えに参りましたのよ、神楽耶様。やはり、この地球では、何をしても無駄のようなので」
「待ってください、神楽耶は僕の大切な人。それにアナタは誰なのですかっ。どうして、関係者以外の人がこの場所に……」
遅れて動いた龍二が、声を荒らげて佳奈さんに詰め寄っていた。その声はいつもとは違い、力強く、そして頼もしいように私は感じた。
「まったく、誰に向かって言ってるのです。
龍二に向けられた冷たい言葉に、私の怒りは最大となる。
しかし、私よりも先に怒りを顕にした人物が……。
「僕は初対面の人に優しくしてるんですけど、アナタにはなれそうにもありません。人間をクズと呼び捨てるような人には特にです」
「ボウヤ、冗談は顔だけにしてくれないかしら。私の名はカナ、誇り高き月の民よ。そして、魔性国女王の側近でもあるのですから」
ダメ、これ以上、龍二には言わないで。このままじゃ、私が魔性国の姫だってバレちゃうじゃない。
私が口を出そうとするも、二人の言い争いは激しさを増していく。重たい空気が場を支配し、私は完全に萎縮してしまった。
「月の民? 魔性国? 何をわけの分からないことを言ってるんです。怪しい宗教団体なんて、ここにはお呼びではないんですよっ」
「竹採神社、あの情報を流したのは誰だと思ってるのです?」
「情報を流す……? だってあれは……」
「神楽耶様が、本来のお姿を戻せばと思い、わざわざ分かりやすいよう、流して差し上げたというのに」
冷たい笑みはまるで悪魔そのもの。私の心は完全に凍りつき、この状況を見守るしかできなかった。
「いや、ありえない。だってあれは、僕の、ううん、神城グループの力で、ようやく手に入れた情報だよ」
「私の手のひらで遊ばれてるとも知らずに、ね? いいこと、たかが人間ごときが、魔性国の姫と結婚など許されるわけないでしょ」
お願い、私の体よ、動いて! 佳奈さんにその先を言われたくない。だって、もし龍二が知ってしまったら……。
必死に体を動かそうとするも、鎖に縛られたように体がまったく動かなかった。言葉を出そうにも、声が出る気配すらなかったのだ。
「それらどういう意味なんです。その言い方だとまるで……」
「あら、人間にしては勘がいいのね、ボウヤ。魔性国とは、遥か昔より、この地球で男たちを傀儡にして遊んでいたのよ。それが私たちの宿命。そして、その頂点に君臨するのが……」
私の瞳からは涙があふれだしていた。もう、佳奈さんを止める手段はない。目を瞑り覚悟を決めるしかない。私は天に祈るように、静かに瞳を閉じた。
「女王エム、そして、その娘であり姫でもある神楽耶様なのだよ。下賎な人間と結ばれるなど、あってはならぬことだ」
「えっ……。神楽耶が、月の民、だって。それじゃ、魔性国のお姫様……」
耳を塞ぎたくなるような状況。
私は大粒の涙をこぼし、龍二は……完全に固まってしまった。
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