第十七話 初めてのデート その三

「龍二、私ね、ジェットコースターに乗ってみたいっ。日本一長いって有名なやつね」

「おーけ、おーけ。ハニーのためなら、喜んでご一緒いたしましょう」

「それでね、私、少し、ほんの少しだけ、苦手だから、手を握ってくれると嬉しいんだけど。べ、別に握ってくれなくても平気なのよっ。でも、でもね、やっぱり、龍二の手があると、安心できるから」


 なんでツンデレなのよっ。素直に『怖いから手を握って欲しい』って、言えないのよっ。もぅ、こんなんじゃ、龍二に嫌われちゃうじゃないの。


 私は自分の心と戦っていた。素直になりたいけど、どうしても、恥ずかしさが勝ってしまう。でも、龍二はこれくらいじゃ、私を嫌いにはならないと知っている。

 だって、彼は……私の運命の人なんだから。


「お安い御用さ、ハニー。僕の手でよければ、いつでも貸してあげるさ」

「う、うん……。そういう龍二が、私は好き、だよ」


 ちがーーーう。違わないけど、ここは素直になるところじゃなーい。もぅ、恥ずかしすぎて、龍二を見れなくなっちゃうじゃないのっ。


「嬉しいよ、ハニー。僕もハニーしか、この瞳には映ってないのさ」

「──!? り、龍二、こんなところで、それは……」


 ──ドクン、ドクン……。

 いきなりのハグだなんて……心の準備ができてないよ。うぅ、嬉しいけど恥ずかしくて、で、でも、離れちゃダメだからねっ。

 うん、今度こそ、今度こそ素直に……。


「ハニー、震えてるけど、離れた方がいいのかい?」

「違うの、これはそういう震えじゃないの。私は……私はね、龍二と一緒にいられるだけで幸せなんです。だからこの震えは、嬉しさの現れなのよっ」

「僕も同じ気持ちだよ、ハニー。僕はね、ハニーといられるなら、他に何もいらない、すべてを捨てられるんだよ」


 龍二……。それは私も同じなんだよ。アナタのためなら、姫という立場なんて簡単に捨ててみせるもの。


 周囲から温かい視線の中、私と龍二は時間を忘れ抱き合っていた。


「龍二っ、ジェットコースターに早く乗ろうよっ。私、もう待ちくたびれちゃたんだからねっ」


 私の問いかけに、龍二は笑顔で応えてくれた。

 優しく温かい笑顔に、私はつい見とれてしまった。

 龍二が手を引っ張りながら、ジェットコースター乗り場へ向かうけど、私の瞳には彼しか映っていなかった。


「心の準備はいいかい、ハニー。このジェットコースターはスリル満点だからね」

「だ、大丈夫よっ、それぐらい。でも、手だけは絶対に離さないでよねっ」

「何があっても離さないさ」


 普段なら何時間も待つ人気のジェットコースター。

 今日は二人だけのために動いている。

 係員に案内され、私たちは先頭の席へ座ったのだ。


「うぅ、先頭なのね。少し怖いけど、龍二と一緒なら平気、だから」

「ハニーは可愛いね。素直なハニーもいいけど、ツンデレなところも最高だよ」

「な、何をいきなり言ってるのよっ。しかもこんなところで……。って、きゃーーーーーー」


 二人だけを乗せたジェットコースターが走り出す。

 景色を見る余裕なんて、私にはまったくなかった。

 でも、恐怖なんて微塵も感じない。だって、私の手は龍二と繋がっているのだから……。


 怖い……けど、龍二がそばにいるから平気だよ。何があっても、この手は離さないからねっ。


 心に誓いを立てるも、ジェットコースターは私を無視し走り続けていた。

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