第十六話 初めてのデート その二

 デート、そうよ、今日は龍二との初デート。

 でも、服なんて……制服しかないわ。せっかくのデートなのに、もぅ、こんなことなら、お気に入りの服ぐらい、持ち歩くんだったわね。


 化粧台で髪を梳かす私に、朝陽が降り注いでいた。鏡に映る自分を見つめ、細かいところチェックすること数時間。

 私はもうひとりの自分に問いかけると、部屋をあとにし龍二の待つ玄関へと向かった。


「龍二、お待たせっ。変、じゃないよねっ、と言っても制服だから、普段と変わらないんだけど……」


 私はくるりと回ってスカートを靡かせてみせる。いつもの髪型でいつもの制服、それでも私は龍二に何かを期待していたのだ。


「ハニー、今日はいつもよりも、輝いて見えるよ。もちろん、いつも輝いていて、僕のハートを照らしているけどねっ」


 お世辞とは言え、龍二の褒め言葉に、鼓動がリズムを奏で始め、私は顔を赤く染めてしまう。嬉しい、その言葉が心に刻まれた。


「あ、ありがと。私の美貌なら何を着ても似合うと思うけどねっ」


 な、なんで変なこと言っちゃうのよっ。これじゃ、龍二に嫌われちゃうじゃないの。もぅ、私ってどうして素直になれないんだろ。


「この世界に、ううん、全宇宙を探しても、ハニーより美しい女性なんていないさ」

「……そんな恥ずかしいこと言わないでよ。ばかっ」

「照れてるハニーもステキだよ。では、僕とハニーのデートに行こうか」


 龍二の手が自然と伸び、私の手を優しく握り締める。指を絡めてきたのは彼の方。それはまるで恋人繋ぎのようにも見える。

 龍二の瞳どころか、顔すらまともに見ることができない。

 鼓動はすでに激しくなり、体全体にリズムを届けていた。


「ねぇ、龍二。今日はどこへ連れていってくれるの? そもそも、学校をサボってだと、補導されたりしないのかな」

「安心してよ、ハニー。それはノープロブレムさ。それに、今日は記念となるデートだからね、楽しみにしてくれよ」

「そう、なのね。私、龍二を信じるわよ」


 龍二が何者であろうと私には関係ない。だって、彼は私に恋の素晴らしさを教えてくれたから。相変わらず言動はチャラ男そものもだけど、でも、心の奥底に響く不思議な声なのだ。


 電車とバスを乗り継ぐこと数十分。私の目の前には、大きな施設がそびえていた。それは、テレビで何度も見たことがあるテーマパーク。

 デートとしてはベタかもしれないけど、初めて生で見るその存在感に私は圧倒されていた。


「さぁ、ここが僕とハニーのデートスポットさ。今日は一日、二人だけの貸切だよっ」

「えっ……。貸切って、ここはテレビでも紹介されてた有名なテーマパークでしょっ!?」


 ここを貸切だなんて、龍二は凄いのね。確かテレビで貸切できないって、言ってたような気がするけど。でも、細かいこと気にしたらダメよねっ。せっかくのデートが台無しになっちゃうわ。


「驚いてくれたかい、マイハニー。お客さんはいるけど、すべてエキストラだから、待ち時間を気にする必要はないさ」

「エキストラ……。でも、貸切なら二人だけでもよかったと思うけど?」

「それだと、デート気分にならないじゃないか。普通の場所、普通の景色でデートする。これが何よりの思い出になると、僕は思ってるのさ」

「貸切の時点で普通じゃないと思うわよ。でも、ありがとう、龍二。私、ここのテーマパークに行ってみたかったのっ」


 二人だけの世界……とまではいかないけれど、二人だけに用意された特別な場所。

 私の心は、足を踏み入れる前から浮かれていた。

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