第十四話 蘇った記憶 その五
どれくらいたったかな。ううん、時間なんて、もうどうでもいい。私の中に魔性の力がある限り、恋なんてできないから。それに、龍二にどんな顔して会えば……。
私を照らす星々のスポットライト。
ただ一点だけを見つめ、私は虚無感に支配されてしまう。
もはや、何を信じればいいのかすら分からない。そんなとき、私の視界に一枚の写真が入る。
黒と黄色の二色しかない、普段なら気にもかけないただの紙切れ。それなのに、呼ばれたような気がして、私はその写真を手に取ったのだ。
「この写真……。なんだろ、ひょっとして、月……かな」
どこにでもありそうな月の写真。
私が食い入るように見ていると、頭の中で何かが再生され始める。荒い画像は時間とともに鮮明となり、やがてその全容が見えたのだ。
「思い、出した……。そうだったわね、私……地球で生まれたんじゃないのよ。私の故郷は……月、だったの」
そう、私は月にある魔性国の姫よ。赤ん坊のときに、この地球へ送り込まれたんだわ。『あの人』がそう教えてくれたんだもの。
それを知ったのは高校へ入学する直前、『あの人』が私にすべてを教えてくれたのよ。そう、あの日にね……。
「私が月のお姫様ですって? 新手の詐欺にしては、もう少しまともな嘘をついた方が、いいと思いますけど〜?」
「当然の反応ですね。で、も、神楽耶様には、この地球で男を虜にしてもらう、という重要な役目があるのです」
若い女性に話しかけられ、私が月の姫だと教えられた。だけど、怪しさ満点な話など信じるわけもなく、私はそのままスルーしようとしていた。
「と、とにかく、宗教の勧誘か詐欺かは知りませんが、私に構わないでくださいっ」
「仕方ありませんね。では、これでどうでしょうか?」
その女性は私の頭をいきなり鷲掴みにした。最初は何がなんだか分からず動揺してしまう。でも……頭の中に流れてきたのは……。
月に存在する大きくて美しいお城。
そこに存在するのは女性のみ。
中はかなり広く、大浴場がいくつも完備されていた。
「何これは……。嘘よ、こんなのデタラメだわ」
「本来なら、自分が成すべきことを自然と思い出すはずなのですが。イレギュラーでも発生してしまったようですね」
「何よイレギュラーって。これはなんの冗談よ」
「やはり、あの夫婦ではダメでしたか。神楽耶様には、多少強引にでも、本来の使命を思い出してもらうしかありません」
その女性は再び私の頭を掴み、私の中に眠る力を引き出したのよ。これまでの記憶と引き換えにね……。そして、魔性の力を使えるようになり、新しい土地で暮らすことになったんだわ。
私はすべてを思い出した。失われた記憶も、自分の故郷も、本当の母親も……。
これから私はどうすればいいの龍二……。こんな私でも、アナタは好きでいてくれるの? 私が何者でもとは言ってくれたけど、それが月の姫であっても、同じことが言えるのかしら。
あの人……そうよ、あの人が元凶なのよ。
確か名前は──。
「佳奈、確かに佳奈って名乗ってたわ。でも、ここ最近同じ名前で同じ姿の人を見かけた気が……。あっ、メイドの人だわ、なんで気が付かなかったのよ、私のばかっ。だって……担任の先生と同じ顔じゃないのっ」
メイドと担任教師が同一人物。
それにまったく気がつかなかった。私は慌てて部屋を出ると、彼女を探し始めたのだ。
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