第十話 蘇った記憶 その一
「気がついたかい? ハニーが突然倒れるから、ビックリしたよ」
「うぅ、龍二……。私は、何者なの……」
いつの間にか、私は車へと運ばれていた。スッキリしない頭で、絞り出したのは自分が何者という言葉。心には闇が覆いかぶさり、私を失意のどん底へと引きずり込もうとする。
あの赤ちゃんは神楽耶と言う名前だった。私と同じ名前……。ううん、きっと漢字が違うのよ、それに苗字だって。でも、心に引っかかるこの不安はいったい……。
どんなポジティブ思考を用いようとも、すべてがネガティブへと変換される。次第に私の思考は停止しようとしていた。
「ハニー、僕はキミが何者であろうと、この気持ちが変わることはないさ。それにさ、僕はどんなことをしてでも、キミを守るから」
「龍二……。私、私……」
私の意思ではない。自然と体が動き、龍二の胸を湿らせる。言葉にならない声に彼は、優しく私の頭を撫でてくれた。
「少しは落ち着いたかい?」
「うん……」
「今日はもう遅いから、家まで送るよ」
「……龍二、私、ひとりになりたくない。お願い、今日は龍二の家に泊めさせて欲しいの。ダメ、かなっ」
初めてかもしれない。私は素直な気持ちを龍二に伝えられた。鼓動が激しくなり、体全体に温かさを感じ始めた。私は涙を流したまま拭うことなく、彼の瞳を見つめていた。
「それは構わないさ、ハニー。部屋なら売るほどあるからね」
「ありがと、龍二……」
私は目を瞑り、龍二の肩にそっと寄り添った。彼の温もりは私に安心感を与え、その居心地のよさで自然と目が閉じてしまう。
気持ちがいい……。この温もりは絶対に失いたくない。ううん、龍二から離れるなんて、私にはもうできないよ。
私は夢の中で、龍二との甘い時間をすごしていた。
「ハニー、起きて、僕の家に着いたよ」
「う、うぅん……。龍二、着いたのね、って……ここが龍二の家なのですか!?」
予想すらしないその光景に、寝起きの私は目が一気に覚めてしまう。
広大な庭に噴水が設置され、目の前には家というより、屋敷という巨大な建物がそびえていた。
「驚くほどじゃないさ、ハニー。それと、遠慮なんていらないからね」
「あ、あの、お城みたいよ。ううん、貴族の屋敷みたいですわ」
「あははは、僕は貴族ではないけど、ハニーはお姫様のように扱うからねっ」
お、お姫様ですって。確かに私は絶世の美女よ。自分で言うのもおかしいですけど。でも、龍二は私のことをそう思っているのかしら。
「本当にそう思ってるのなら、お姫様を抱えるのがおもてなしではないのかしら?」
な、何を口走ってるのよ。待って、違うわよ。これは私が思ってたことだから、龍二に伝わるわけが……。
「それは一理あるね。では、ハニー、ちょっと失礼するよっ」
「──!?」
えっ、声に出てたの、嘘……。しかも待って、こんな格好、恥ずかしいのにっ。だ、ダメやめないで、でも、龍二の顔が近すぎて、まともに見られない、よ。
私の思考は完全に暴走してしまう。なにせ、龍二が恥じらうことなく、私をお姫様抱っこしたのだから。
頭が真っ白になったまま、私は屋敷の中へと連れていかれる。顔は真っ赤に染まってしまい、鼓動が激しいリズム刻んでいた。
もぅ、なんで龍二は恥ずかしくないのよ。ばかっ。
嬉しさと恥ずかしさがひしめき合い、私は龍二の胸に顔を預けたのだ。
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