第九話 記憶の断片 その五

 目的地までは、ヘリコプターであっという間であった。地上に降りると車が用意されており、私と龍二はそれに乗り込んだ。


「龍二、竹採神社へはまだつかないの?」

「焦らないでよ、ハニー。車で五分とかからないはずさ」

「そっか、もうすぐなのね……」


 目的地に近づくにつれ、私の心音が大きくなっていく。まるでレーダーのかわりのように思えた。


 車が静かに止まると、私のレーダーは大きな反応示す。

 ──ドクン、ドクン……。

 心音は最大音量となり、ここに何かあると直感した。車から降りるた私は、龍二の手を握り締めその場所へ歩き出した。


 木々が生い茂る細い道を通り、その先にある光り輝くモノを目指す。ついに私は……その場所へとたどり着いた。だがそれと同時に、絶望が容赦なく私に降り注いだのだ。


「えっ……。ここが、神社、なんですの? 本当にこの場所であっているのですかっ!」


 声を荒らげ龍二に詰め寄るのには理由があった。私が目にした光景、それは──。


「ここで間違いないよ、ハニー。ここが竹採神社なんだ。正確には少し違うかな」

「どういうことなの、こんな空き地が神社なわけ……ないじゃないのっ」


 私の心は崩壊し奈落へと落ちていく。その場で崩れ落ちただ一点だけを見つめ続ける。夢にて出てきた映像と景色は同じなのに、社だけがそこに存在しなかった。


 龍二はここが竹採神社だって……。でも、神社なんてどこにも、ううん、そういえば確かあのとき、龍二が何か言ってたわよね。


 ── その神社があったと思われる場所。


 絶望の中で頭に浮かんだ龍二の言葉。私は意味を勘違いしていたと気がついた。『思われる』、それは『その場所に存在していた』という意味ではなく、まったく別の意味であった。

 その意味は──。


「ハニー、落ち着いてくれよ。この場所は……」

「神社があるという噂の場所。ということかしら? もしくは、神社があったけど、何者かがその存在を消したということかな」

「さすが、マイハニー。正確には、意図的に神社を作り、用が済んだから、その存在を抹消した、だけどね」


 私へ向ける龍二の真剣な眼差し。

 そして、『抹消』という穏やかでない言葉に、私は息を飲み込んでしまう。


「抹消って、どいうことなの。それじゃ、まるで……」


 理由を尋ねようとすると、突然、私に激しい頭痛が襲いかかる。前よりも強力な痛みで、うめき声とともに私は意識を失った。龍二が何かを言ってるのも聞こえずに……。


「アナタ、夢のお告げ通りじゃない。光り輝く可愛い子よ」

「……確かにそうだが、この時代に捨て子だなんて、許せないな」


 何、これ……。私はどうしてしまったの。それに、あの人たちはこの前の……。


 体の自由がきかず、私は瞳に映る男女とその声しか認識できなかった。今が暑いのかそれとも寒いのか、それすら分からず、二人の会話を黙って聞いていた。


「この子、私が育てます。だって、放っておけないですし」

「お前がそういうなら、俺は何も言わないけど。ん、この紙切れは……」

「手紙かしらね。どれどれ、えっと中身は……。」


『名前は神楽耶と言います。どうか、この子をよろしくお願いします』


「神楽耶、というのか。この子の笑顔は光り輝く可愛さだな」

「ホントですね、アナタ……」


 神楽耶でって。私と同じ名前……ううん、たまたまよ、きっとそうに違いない。そうだ、あの人たちの苗字は、お願いその名前を私に教えてよ。


 悲痛な叫びが届くことはなく、私の意識はそこで切断されてしまった。

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