第四話 初めて気がつくこと
結局、私は龍二の言葉に頷くしかできなかった。
学校に着くまで……ううん、着いたあとも鼓動は激しく私の心を乱していた。
「おはよう〜、愛しのクラスメイトたち。今日の僕は遅刻しなかったさ」
「きゃー、龍二様。昨日は突然いなくなって、私たち悲しかったんです〜」
教室に入った途端、龍二に詰め寄る女子生徒たち。
私には見える、キャキャンとシッポを振りながら、私の龍二にちょっかいをかけていた。
──ん? 私の龍二?
付き合ってるとは言え、私は龍二に恋愛感情なんて……。
そもそも、恋愛感情って何かしら。そんなものは私に存在しないはず。中学生のときもそうだった。当然、それ以前から……。あれ、そもそも中学生の記憶がない。
ついこの間までは中学生だったのに、なんで思い出せないのよ。そんな、これって……若年性アルツハイマーということなの。
「マーイハニー、深刻な顔をしてどうしたんだい〜?」
「ふぁっ!? り、龍二、いつの間に近づいたのですかっ」
「影より忍び寄るのが得意なんだよっ」
「それって、ストーカー……。といか、あの女どもはなんですの? 龍二も満更ではないように、見えましたけどねっ」
なんで、どうして……。
イライラする、なんだか心にモヤがかかってる。私の身に何が起きてるのよ。
「ごめんよ、ハニー。でも、嫉妬するハニーもステキだよっ」
「し、嫉妬ですってっ! 私は嫉妬なんかしませんし、だいたい、なんで龍二なんかに……」
嫉妬……なのかしら。ううん、違う、違うに決まってます。そのような感情を抱いたことなどありませんけど、断じて嫉妬ではありませんから。
「もう、ハニーはツンデレなんだから〜。でも安心してよ、僕が心を許すのはハニーだけなんだからさ」
「べ、別に私は……」
「ツンデレなところも、きゃわいいよね」
龍二のひと言で、収まったはずの鼓動が再び激しくなっていく。
歯の浮いた言葉など聞き飽きてるはずなのに。
どうして……なの、同じ言葉なのに、どうして龍二だとなんで私の心が乱れるのよ。
深呼吸、そうよ、深呼吸で心を沈めて、普段と同じ返しをすればいいだけよ。それだけ、なのよ……。
「り、龍二、あ、あ、ありがとね。嬉しいわよ、でも、あまり他の子と話して欲しくない、かなって」
──私は何を言ってるの!
きっと乱れた心の……違うよ、さっき整えたばかりなのに。私は本当にどうしちゃったのよ。
「ハニーの願いを叶えたいんだけど、向こうから寄ってきてしまうんだ。無下に断るなんて、紳士たる僕にはできないんだ」
「ふ、ふぅ〜ん、私よりも、その子たちの方が大切ってことなのね?」
「それは違うさ、ハニー。僕は、いや、僕の体や心はすべて、ハニーのモノなのさっ。だから、そんな顔を見せないでおくれよ」
「わ、私は普通の顔ですよっ。別に怒ってなんか……」
私の意思なんて無視し、勝手に言葉が外へ飛び出してしまう。これじゃまるで……龍二の言う通り、ツンデレですわ。
否定すればするだけ、心の内側にある何かが反応する。
それは、私に何かを気づかせようとしているのだと思えた。
「ハニー、怒らせたことは謝るからさ。機嫌を直し欲しいな」
「何度も言わせないでよっ。私は怒ってなんか……ないんだからっ」
あっ、そうか。今、初めて分かったわよ。なんでこんなにもイライラしているのか。
私……恋しちゃったのね。このよく分からない、神城龍二という男に……。
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