第3話 ことの顛末。旧暦三月の異名

 目を開くと、窓の外に鮮やかな青い空が見えた。白い雲が映えて、とても綺麗だった。


 でも、今日は平日のはず。

 会社は9時から就業だけど、私の家からは2時間かかるので、いつも家を出る時間だと、空はまだ薄暗い。……つまりは遅刻だ。

 慌てて飛び起きると、固い床で寝たせいか、身体がバキバキで、昨夜泣いたせいか、目は真っ赤で顔はむくんでいた。今からじゃ、絶対もう間に合わない。……無理よりの無理の無理。

 絶望しつつも、とりあえず連絡を入れるため、スマホを手に取ると、未読の通知がひとつ。……彼女からのメッセージをひとつ見落としていたみたいだ。


『恋人じゃなくなっても、あなたが大切な人には変わらないから。


 あと、あたしが居なくても、寝坊はしないように。

 そういえば、旧暦三月は夢見月とも言うそうですね。あなたらしいなぁと思います。


 最後になりましたが、お誕生日おめでとう。また、ご馳走つくってあげますね☆』


「……今日は旧暦だと二月だよ」


 思わず溢れた独り言は、思ったよりも掠れた声で……。私はゆっくり洗面所に向かった。

 ふと思いついて、廊下から部屋を振り返る。青い空はやっぱり綺麗で、電気を付けずとも、明るかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

真夜中の理想郷 おくとりょう @n8osoeuta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ