テセウスの器・3
***
ひと昔前は大陸をひとつ跨ぐのに、船や汽車を使って何日も何日もかかったものだ。翌朝、海中トンネルの手前に造られた駅から列車に乗ると、半日経たずに帝都を越えられた。
ちら、と向かい側の関に座るライラを見る。頬杖をついて、流れる車窓の景色を眺めている。
着いてきてくれるなんて意外だったな。面倒なことには首を突っ込みたくないタイプだと思ったから。ああ、いや、それは昔のイメージか。本当に雰囲気変わったなあ──。
「……?」
視線に気づいたライラと目が合った。陽光がキラキラと銀髪に反射して眩しく、にこ、と優しく微笑む。
(わぁ、王子様だ──!)
***
列車は末端の駅で止まり、ふたりはそこで降りた。無人の物哀しいホームにはベンチすらなく、すかすかの時刻表だけがぽつりと佇んでいる。進行方向のレールは途切れ、ここからは歩いていくしかなさそうだ。
足元の砂利道はコンクリートに姿を変えて、目線の先には高層ビルの摩天楼がそびえている。暗くなった空に、びかびかしたライトが明るく光っていた。
下町なのか流れ者の掃き溜まりなのか、土色のプレハブを電飾やら何やらで飾った家々がずらりと建ち並び、路上で酒盛りがおこなわれていたりして賑やかだった。
「ライラは、この辺りにはきたことある?」
「いや、
ライラは物珍しそうに左右を交互に見て、その風変りな景色をしげしげと眺めた。新しい知識を取り入れようとする賢人の動作だ。かと思えば足元の石に気付かず、「あ、」と派手につまずく。……うーん、やっぱり違うかも。
「今日は長旅で疲れただろ。宿をみつけて休もう」
「そうだね、賛成」
――このエリアがさほど広くないおかげか、宿らしき建物はすぐに見つかった。アパートの空き部屋を適当に貸し出しているらしいが、相場よりもずっと安く泊まれそうだとライラが言った。そういえばユイは通貨の使い方を知らなかったが、それも彼がさらりと解決してくれた。さすがだ。
ライラはユイを部屋まで送ると、ドアの外へと身体を向けた。
「じゃあ、朝になったら起こしにくるから。ゆっくり休んで」
「一緒に寝ないの?」
ユイの言葉に、ライラが一瞬凍り付く。
「一緒、に?」
「え? うん。シイハと旅をしていた時はいつも一緒に――」
「ユイ。ダメだよ、簡単に男と二人きりで寝ちゃ」
意味が分からず首を傾げたが、ライラは溜息混じりにそう言い残してガチャリとドアを閉めた。
ライラ、なんで怒ってるんだろう……。
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