蒼海の海月

 それは、高い知能を持った海洋生物であった。

 別名・海の悪魔。又は天使。又は──と、数え切れぬほどの異名を持っているらしい。

 その生き物と初めて邂逅したとき、私はひどく驚いたものだ。彼等は人語を理解し、流暢に話す。歌を唄い、大工をし、料理を作り、お洒落に服を着る。

 最早、そういった種の〝ヒト〟なのではないかと、そんなことを思えるくらいだ。


 ──話を。

 私は帝都の港を発ち、熱砂大陸行きの船に乗った。しかし、道中でひどい嵐に見舞われ、船は積荷と幾人かの乗務員を乗せたまま転覆。

 私はひとり、浅い海底をゆっくりと歩き、海面から顔を出した平たい珊瑚に座って荷物と衣服を乾かした。

 大型の肉食魚が私を狙ったが、軽く絞めて難を逃れた。そうこうしていると、彼らが面白がって近づいてきたのだ。


 美しい月夜だった。


 あまりに腹が減ったというので、ただの生臭い荷物になった肉食魚を譲ることにした。

 二メートルほどもある、半透明の泡立つ傘の下には、無数の触手が伸びていた。

 ヒトでいう脳の部分から口と呼ぶべき器官がぱくりと露出し、餌を触手で絡めて放り込む。仲間で身を分け合い、最後にはそれは、気持ちいいほど綺麗な骨と化した。

 彼らは礼だと言い、漂流物から小さな舟を造って私を乗せた。潮の流れに乗れば、半日ほどで熱砂大陸に着くだろうと。着かなければ私の命運が尽きたと判断し、胃の中へ収めるとも。よくわからない理屈だ。

 彼らが私を騙しているのではないかとも思ったが、そのうち舟は熱砂大陸の浜辺を踏んだ。疑ったことをほんの少しだけ悪いと思いながら、私はここに、彼らの記録を残す。

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