奇妙な旅人・7
「リラ……」
ユイが足を止め、振り返る。
「ありがとう。私は食べられるのを待つだけの肉の塊じゃない。自分の運命は自分で選ぶ。……どうか、人を……姉妹を食べなくても生きていける方法を探して」
どこか他人事のような科白。しかしそれが、ユイの今の精一杯だった。
「いくなら、はやくいきなさい……」
リラは暫く、遠ざかっていく二人の背中を――何度も振り返るユイの顔を見詰めていた。その姿が見えなくなってから、ようやく。少しだけ項垂れて、群れの中へと帰っていった。
***
「南東に食人族・ラヴィの集落と思しき廃墟を発見。情報は確かだったな」
十数名から成る、鎧を纏った騎馬隊が砂を巻き上げて大地を駆ける。先頭の男が、首から吊り下げた無線機に何やら話しかけると、ノイズ混じりの音声が少しのラグの後で返ってきた。
『確かもなにも、通行禁止令まで出てるんだから間違いねーっしょ。ってか、本当にオレいかなくてよかった?』
「貴様のような遊び人の出る幕ではない。国王陛下の憂いは士官長である私が払う」
『へーへー、そんじゃ頑張ってよ。その間、アンタの姫さんのことはオレに任せ──』ブツッ。
男は手の中の無線機を握り潰した。
「隊長! 人影が見えます! 十、二十、三十……。恐らくあれが」
「ああ、間違いないだろう」
携えた長槍を構え、視線の先の群衆を見据える。数年前に消息を絶ったキャラバン隊には、男のただ一人の妹がいた。彼女は未だ帰らない。その理由が判明したのは、とある旅人の冒険記録だった。
(マヤ……遅くなってすまない)
そこに一列に並ぶのは、白髪に赤い目の少女たちだ。可愛らしい見た目に惑わされてはならない。ラヴィは獰猛で人を喰らう、人ならざる怪物なのだから!
「お出迎えとは好都合だ。……動きを止めるな! 我らがアズハール国王の名に於いて、犠牲となった者たちの仇を討つ!」
「「「うぉおおおぉおッ!!」」」
──…………。
ああ、誰かがこっちに向かってくるわ。
でも、もう私たちは人を襲ったりしない。
同族を食べずに生きていく方法を、さがしてみようと思ったの。先祖がそうしてきたように、こんな悲しいことはやめるのよ。
男が叫ぶ。
「一匹残らず殺せ!」
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