Ep.1 廃墟の集落
奇妙な旅人
砂煙の中を、一人の旅人が歩いていた。麻のローブで顔の半分を覆い、メッキの剥がれた防塵ゴーグルを装着している。背中には大振りのリュックを背負い、いかにもそれらしい風体で砂の大地に足跡を刻んでいく。
靴底にまとわりつく砂利の感触に、確信めいた何かを感じ、旅人はローブの裾からコンパスを取り出した。針が示す南東の方向を真っすぐに見据えると、無数の黒い影が茫と姿を現す。情報通りだ。ここには――。
「――お兄さん、どこにいくの?」
いつの間に取り囲まれていたのか、すでに四方はそれらによって塞がれていた。これが白いふわふわの綿花畑だったなら、なんと可愛らしいことだろう。たくさんの人間の、異常なまでに興奮した息遣いが耳に障る。
「もうすぐ日が暮れるわ。夜になると、この辺りには盗賊が出て危険なの。よかったら、私たちの村まで案内しましょうか」
甘い声で誘うのは、中でもひときわ落ち着いた背の高い少女だ。見たところ、この集団の
「村、ですか。この辺りは太古の昔から不毛の大地で、人が住めるような環境ではなかったと記憶していますが」
「そんなに警戒しないで。──抵抗するなら、怪我をすることになるわよ」
考える間も、何かを言う間もなかった。そこに住まう(……恐らく)小柄な少女たちは、揃いの赤い目をぎらつかせながら錆びた刃物を振り翳し、旅人に襲い掛かる。痩せて不健康そうな腕が、脚が、不安定な軌跡を描いて落追する。
「みんなもう、何日も食べていないの。ごめんなさいね!」
そんな
「おやおや……」
覆面の下から発せられたくぐもった声を聞いて、少女たちは戸惑った。今まで狩った、どの人間とも違う。きっと、束になっても敵わない。少し離れて見守っていた長も、それがわからないほど愚かではなかった。
「貴方、いったい何者なの? ……普通の旅人じゃないわね」
「いいえ、普通ですよ。それにしても、穏やかじゃないですねぇ。交渉ならもっと平和にいきましょうよ。その方が、ずっとお互いの為だ」
旅人は防塵ゴーグルをくいと上げ、顔を隠していた麻布を顎下まで引き下げた。まだ若い赤錆色の双眸と、白い陽光のような白金の長い髪が露わになる。
「はじめまして、シイハといいます。──申しましたとおり、普通の旅人です」
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