第2話 ナイン

——頭上に広がる宇宙。


明らかに今まで生きてきた国、時代…、地球、世界とは違う場所に座り込んでいた。

手に当たる感触は冷たい、岩…か?

月面ってこんな感じなんだろうか。


前方には大きく綺麗な青い、まるで地球のような星が浮いている——が明らかに大陸の位置が地球とは違う為、どうやら知った星では無いらしい。

殺風景だが寒くはないし呼吸も出来るな、と現状を確認していると後ろから声をかけられた。


「気が付いたか?」


振り返ると——辛うじて口もとが僅かに見えるくらいか——深くフードを被った男が立っていた。


「私の世界へようこそ、君にはすぐに出て行って貰うがね」


「どういうことだ?」


と立ち上がり、恐る恐るだが俺は問う。


「知らんのか、“転生”ってヤツだよ、流行ってるんだろ、こういうの」

「現実で何も成せなかったヤツが夢見るアレさ、お前にピッタリだろう?」


明らかな挑発だった。

こいつは俺の死因どころか、前後のやり取りも知っているような口ぶりだ。


「成したさ。生憎だけど、俺よりもっとココに連れてくるべき人間はいっぱいいるんじゃないか?」


男は悲しそうに口角を下げると、


「傲慢だね…、その傲慢さでお前はココにいるんだよ」


そう呟いた、気がした…。


「いや、忘れてくれ!楽しい話をしよう!これから転生を果たすお前に、渡すべき特典があるんだ!」


一転して明るい口調で男は言う。

が、内容が頭に入ってこなかった。


「特典ってどういうことだ?そもそも転生がどういうものかサッパリ分からないんだが…」


ニヤリ、と男は笑う。


「転生は…すれば理解するさ。それより特典だ、君の後ろに“いる”よ」


再び振り返った俺の目の前には


大きく綺麗な青い星を背に


———女の子が、“浮いていた”


白いワンピースを着た小柄な女の子が、背丈ほどある長い白髪を靡かせて、大きな赤い瞳でこちらを見下ろしている。

言いたい事しか無かったが、俺より先に彼女が——とても良い笑顔で口を開いた。


「アタシはナイン・アーティクル!よろしくね!ナイン、って呼んでよね!」


「……………………は?」


一文字を発することで限界だった。


「お前にはこれから、この娘と一緒に転生してもらう。くれぐれも変な気は起こすんじゃないぞ、する事は世直しなんだからな」


ナインとか名乗った女の子は隣でうんうん頷いている…。


「話についていけません、説明して頂いても宜しいでしょうか?」


ちょっと丁寧に言ってみたが恐らく回答は期待出来ないだろう…。


「「行けばわかるさ!!」」


やっぱり。


「さあ!いよいよ時は来た!これからお前は異世界で、天下無双、万夫不当、縦横無尽、天衣無縫の活躍をすることだろう!」


「あの…、意味が通らない言葉が——」


「“また”な、青年よ」


笑みを浮かべながら男が手を叩くと俺の足元から光が溢れる。

なにを言おうが手遅れっぽいし、超常現象にも呆れ果てたのでもう黙っていよう。


「アタシも転生ってしたことないけど、アナタとなら上手くやっていけそうな気がするわ!改めて、ヨロシクね!」


「俺には不安しかないが…」


口に出ていた。

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