怪文書No.9

まよ川まよい

第1話 青年の夢


「話し合えばわかるはずだ!」

「武器を捨てろ!」

「民主主義を守るぞ!」

「うおおおおおおお!」


「「戦争をやめろーーー!!」」






——俺には夢があるんだ。


“この世界から暴力を無くす”


自分一人では到底、叶わない夢だとしても

いまの俺には仲間がいる。


石川、遠藤、山田、鈴木……

最近ではメディアにも取り上げられるようにもなった。まだまだ仲間は増えるだろう。


数えきれない仲間たちと一緒に活動を続けていれば俺の——、途方もない、と笑われた夢だって、叶うことだろう。




毎週末のデモの後には学生の時からの同級生で同志である石川の部屋で、彼の淹れたコーヒーを飲んでいる。

10年前に活動を始めた時からの習慣になっていて、石川のコーヒーも段々美味くなってきた。カッコつけて淹れ始めた最初の頃が嘘のようだ。


「今日のデモも大成功だったな!」


俺はSNSに活動報告を書き込んでいる石川に向かって言った。


「俺たちが活動してきた3年間で確かに、仲間は増えたけどさ…」


そう言って石川は言葉を止めてしまった。


「なんだよ、気になるだろ」


間が空いた後、石川は苦い顔でこう言った。


「いや、仲間は増えたけどさ…」

「“世界って変わったのかな”って」


信じられなかった。


世界から武器を無くそう、と


世界の武器は我々だけで良い、兵器の代わりに言葉で、コミュニケーションで、我々が世界の武器となる、と活動を続けてきた“SWORDs”の創立メンバーの口からは聞きたくない言葉だった。


「ふ——————…っざけるな!!変わってるだろう!今日のデモの参加者は何人だ!いま、お前のフォロワーは何人いるんだ!大学教授の先生も賛同してくれてるしこの間はテレビにだって出た!ネットの記事で何回取り上げられたと思ってる!逆に、————じゃあ、逆に聞くけど!お前が変わってないって言う根拠はなんだ!言ってみろ!!」


「変わってない、なんて言ってないよ。お前はいつもそうだな…」


ヤツは微笑み、電子タバコをひと口吸うと、静かに話を続けた。


「————戦争が、始まった。」

「俺たちは10年間、活動してきた。でも戦争が始まったんだ。」

「俺たちの影響力は大きくなったよ、でも争いを無くすことは出来なかったんだ」

「なあ、お前は戦場に行っても“話して、酒飲んで、遊んで抑止力になる”なんて言える———」


もういい。


「うるさい!お前のことはよく分かったよ、そんなヤツだとは思わなかったけどな…」

「お前はそうやってずっと俺のことを馬鹿にしてたんだな、許すよ、友達だもんな、ただ…」


「「もう会うことはないだろう」」


「じゃあな」


最早どちらが言ったかも分からない別れのセリフと共に、石川に背を向ける。

すると、不意に意識が遠くなった。


————あぁ、俺は今日ここで死ぬのか。


だってさ石川、言えなかったけど…


今日のコーヒー…


美味しく…


なかっ…



た…

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