隣の家の幼馴染がアイドルとか【KAC2022第2回】
はるにひかる
まほろ
「……ねぇ、
俺の部屋でベッドに凭れて漫画を読んでいた
グッズと言っても、自作した様な痛いやつでは無い。
小さい頃から子役の仕事をちょこちょことしていた万穂絽は、数年前からアイドルをしている。
所属するグループは平均年齢16歳の6人組の“AB-fly”と云う名前のグループで、担当カラーはモリゾウグリーン。
路上から始まったその活動も、今ではそこそこ大きな会場でライブが出来る程に成長している。
今日の日曜日は偶々オフで、小さい頃からそうしていた様に、自宅の
特に何をする訳でも無いが、落ち着いて疲れも取れて、やる気になるんだとか。
「飾らねーよ」
万穂絽の方を見る訳でも無く、ゲームに没頭しながらボソッと返す。
「……ふーん、残念。ねえ、グッズが新しく出る度にあげるの、迷惑?」
「そんな事は無いけどな。大事な幼馴染様の歴史だからな」
「……そっ」
万穂絽は無表情にそれだけを言って、再び漫画に視線を落とした。
「ねえ、最近言い寄って来るジョリタレが居るんだけど、どう思う?」
「……っ、そうなのか?」
今度は漫画を読んだ儘訊いて来た万穂絽に、思わず言い淀んでしまった。
“ジョリタレ”とは、“ジョリーズ事務所のタレント”の事で、中学とかの頃から入所したイケメン君達が鎬を削る事務所だ。
世間知らずが多い分、度々所属タレントがスキャンダルを起こす等、問題も多い。
勿論所属タレントの大多数は弁えているのだが、これからが大切な時期のいち女性アイドルに声を掛けるなんて、先ず間違い無く弁えていない方の部類の奴だろう。
「まあ、記者に写真でも撮られたら人気は落ちるだろうし、謹慎処分は
「それだけ? 今時、炎上アイドルも珍しくないけど。相手が有名なら有名な程」
「やめとけやめとけ、それが成功する奴なんて、極一部の神経が図太い上に幸運が重なった奴だけだ」
「……裕翔がそう言うなら、やめておく」
万穂絽は暫く考えた後、そう言って漫画のページを捲った。
「——でもそうすると私、ずっと独り身だなぁ。そうなったら、裕翔が貰ってくれる?」
どうしたんだろう、今日は万穂絽の男女関係の質問が止まらない。
普段はこんな事無いんだが、ジョリタレの件が有って、気にでもなったのだろうか。
「……そうだな、武道館や東京ドームでやる様なレベルになって、アイドル寿命を全うした後なら考えてやる」
「それだと、裕翔もわざわざ東京に行かなきゃいけないけど。……ナゴヤドームじゃダメ? 笠寺に有る、ガイシホールとか」
「ガイシホールってのは確か前に、地元のアイドルグループの子達が5年で達成した場所だろ? ナゴドは兎も角、そっちはダメだな」
「ちぇ。あのグループはそもそも先輩グループが有名だし、事務所の大きさも有るのに」
残念ながら、一般人の俺にはその辺の具合は分からないが。
でも確かに言われてみれば、その事務所には有名な俳優や女優も多数所属していたと思うし、その先輩グループのメンバーの1人が卒業してそっちに移ったりもしたんだったか。
「……まあ良いや。言質は取ったからね。何度かドームでやった後、昔のアイドルみたいにステージ上でマイクを置いて、『普通の女の子に戻ります』って言ってやるから」
「ああ、期待しないで待ってるよ」
ぞんざいに返事をした俺に、万穂絽は頬っぺたを膨らませて唇を尖らせた。
気分転換になったから帰ると言う万穂絽を階段の下まで見送って、玄関先には母さんに出て貰った。
子役の頃からうちに来た時は念の為にこうしているが、ジョリタレの件を止めた今日、万が一俺が見送った処を撮られでもしたらシャレにもならない。
「じゃあまた来ますね! また今度お料理教えて下さい!」
「うん、待ってるわね。じゃあ、また」
元気な万穂絽の声に母さんは優しく返して、玄関の扉を閉めた。
「万穂絽ちゃん、今日も来た時より大分良い顔になって行ったわね。いつも、何してあげているの?」
「別に、話をしてるだけだよ」
興味津々と言った母さんとの話を早々に切り上げ、階段を駆け上がって部屋に戻る。
そしてクローゼットの中から色々な物を突っ込んである段ボールを取り出した。
丸めていたポスターや人形、アクリルスタンドなんかを元々飾っていた場所に戻して行く。
放り込んでいたグリーンのパーカーを羽織って、PCに入れっぱなしのAB-flyのプチヒットCD、“N.G.Y”を流した。
因みにクローゼットには万穂絽に貰ったグッズの3倍のグッズが眠っていて、近い内に保管場所を考えなくてはいけなくなっている。
俺の推しグループは“AB-fly”、推しメンは当然モリゾウグリーン担当の“まほろ”。
——これからも俺は、俺にしか出来ない推し活を続けて行く——。
隣の家の幼馴染がアイドルとか【KAC2022第2回】 はるにひかる @Hika_Ru
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