6人目 からす番外編 リスナー目線 筆者まこさん
私が、からすという配信者に出会ったのは2020年。疫病が世界中で猛威を振るう中であった。知人の枠にいた彼をなんとなくファンポチした後暫くして枠に行くと、彼は当時ネットで爆破予告をされていた近所の市役所の周りをぐるぐる回りながら、「なかなか爆破されないですねぇ」などとなかなかに狂った実況を行っていた。ハートをもらうとお礼に法螺貝を吹いていた。Spoonでの一番はこの枠だと思った。
🐚からす🐚。自称では、そのへんにいる営業のおじさんだが、実のところ大学と大学院で歴史や精神文化史をきちんと学び、修士号を得ている秀才である。本を読んだり勉強をすることが大好きで、絶えず面白いものがないか探しているような人物だ。
そのバックグラウンドからか、自枠を「万物の相談・雑談枠」と称し、お酒とおいしいごはんをお供に何でも相談に乗っている(乗ろうとしている)。
「万物の相談」とは言っても、普通のお悩み相談枠のような相談は、できないか嫌いかのどちらかである。彼が嬉々として受けてくれる相談は「あのニュースってどういう意味?」「カルト宗教って危ないの?」などの、我々の日常生活に関連する知識や、地学や歴史等、学問的知識であることが多い。
とりわけ恋愛相談などは苦手であるが、とりあえず「相手にタラバガニを贈る」「パフェを食って幸せな気持ちになる」ことですべてを解決させようとする。映画と野球に関してはわからないらしい。
ところで枠タイトルの「万物の相談・雑談」の「雑談」の部分だが、大体日本の大人が外ではできない話をしている。と言っても下ネタではなく、上記から察することもできるように政治・宗教・歴史・相撲などの割と争いを生みやすいカテゴリのものだ。それらを小学生でもわかるような語り口で、なるべくフェアに、面白く教えてくれる。
そのトークスキルもあって各々の思想の違いはあっても枠の雰囲気は険悪にならない。寧ろ右も左も神も仏も、森羅万象がコメント欄に鎮座し、話の行く末を眺めている。
寧ろそれができない民は、枠の秩序を守るため強制退出機能で締め出しに合う。
可哀想な気もするが、悪意を持ったユーザーや、ある種のことに厳しすぎるユーザーに通報されて、枠が潰れることがあってはならない。からす枠は言論の自由を保障してくれているので。
ちなみに強制退出やブロックに関しては、恐らく通常のSpoon配信者の感覚ほど重くは捉えていない。野良猫が通り過ぎていくように、よくあることとして処理される。
そんな彼がSpoonを始めたのは2020年5月。元々他の配信サイトでの配信経験がある彼は、その時代のご友人に導かれてアプリを落としたという。
最初に開いた枠に来た女子高生から、Spoonというプラットホームには、「ハーコメ」という各々のオリジナルコメントで、ハートを貰ったことに対しお礼の気持ちを表す文化があると教えてもらった。しかし考えてもらったハーコメにどうしても抵抗があり、手元にあった法螺貝を言葉の代わりに吹くことにした。ちなみにそのときの女子高生が初代のマネージャーである。
そしたら「ハーコメ代わりの法螺貝」がなんかバズってしまい、着々とファンが増えていった。マネージャーも増えていき、現在14人(引退者も含めれば19人)。ちょっと変わりものの田舎の博識おじさんは、こうしてどんどん皆に愛される枠を作っていく。
美味しいものを好きなだけ食べ、美味しいお酒を好きなだけ飲み、自分の知識や経験、面白かったこと、生活の愚痴を好きなだけ話し、ときには枠の途中でパタリと死んだように眠り、全世界に寝息を轟かせる。
枠主がやりたい放題やるスタイルは、枠によく来る連中が気楽にいられる大きな要素であり、コメントをする民、寝ている民、仕事をしている民など、ユーザーも皆各々で好きにしている。
言うなれば専ら公民館のように、開いていれば勝手に入って、各々パイプ椅子を勝手に出して座り、勝手に持ってきたお茶菓子を皆でつまみながら、あーでもないこーでもないと話している感じである。なので枠主がトイレに行ったところで、特に気にせずそこにいる皆で話してるし、見知らぬ人間が来ると警戒心が高まる。共通の知人がいると聞くとホッとする。そんな感じである。
時が経つにつれ、彼はハートやスプーンが飛んだときの感謝の意を、法螺貝を含めた何かしらの一芸で返すようになった。多岐にわたるその芸は「おもしろい(主に彼自身が)」と「来てくれたユーザーへの感謝」でどんどん増えている。
法螺貝で、知ってる曲ならばメロディを何でもなぞれるようになったのも、コアなモノマネの数々も、家にあるおりんと木魚でShape of youのリズムが取れるようになったのも、某サン○オキャラクターに更にキャラをつけて、日頃の愚痴を述べるプチ漫談も、面白いと思った(思われた)ことが、来てくれたユーザーへの感謝の気持ちで増幅され、定着していったものである。
一旦余談である。この「感謝を目一杯伝える」という姿勢。元々の彼の信念にも基づくものである事は確かなのだが、引退した、とあるユーザーの影響も大きく受けていると考えられる。
ーー彼の最推し配信者であった「あずきのへや」。
彼女はゲラゲラ笑いながら、寺をやっていたという祖先から受け継いだおりんを、半ば殴るいきおいで鳴らしながら、軽快に話す配信者であった。
同居するお姉さんにいつも、おりんを見えないところに勝手に片付けられてしまっているおちゃめな彼女。
お姉さんの目を盗み配信を始め、ユーザーが入室したら部屋のどこかに隠されたおりんを一生懸命探し始める。
ちなみに探し始めるのは、枠に人が来てからであり、それまでは(人気配信者であるにもかかわらず)誰も来ないだろうと踏んで、カリンバの練習などをしている。
そんな破天荒な様子とは裏腹に、来てくれたユーザーに対してはとても丁寧であった。投げられたコメントに対してはどれだけ溜まっていても読みあげて反応をするし、一度もコメントせずに出ていっても、枠の最後にお名前を読んで感謝の旨を伝える。
コメントをくれた人に対しては、印象深い内容を通称「あずきノート」に記して覚えておく。次に来たときに思い出せるように。
彼女のハーコメは「今日あなたに、ちょっといいことありますように。なむなむぽんぽん。」
彼女はからす枠のマネージャーでもあった。
定期も素早く美しく作り、枠に来てくれたひとりひとりに挨拶をする、美しいマネージャーであった。
彼だけでなく、みんなに愛されたこの「あずきのへや」は2021年5月に突如として引退するのだが、「感謝の旨を等身大でいっぱいいっぱい、できる限りの力で伝える」という彼女の信念は、確実に彼の中に生きている。
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からす枠では表立って言えない聞けないことがよく話題になるがゆえに、枠に来る面々も毎度興味津々である。世の中のタブーを面白がったり、聞いたことはあるけど何なのかわからないことなどを時には一緒に解き明かしたり、何だか今まで退屈だと思っていた毎日が実は面白いもので溢れていたと気付かされる。彼の枠にはそういう不思議な力がある。
どんな人間も彼の枠の前にはみんな等しく(枠主含め)「そこにいるだけの人」になる。老若男女地域職業関係なく、みんなどこかおかしくて、みんな稀有で、ひとりひとりが、ひとりひとりとして存在できる。各々の感性で楽しんでいる。
「みんなちがってみんないい」と金子みすゞも言ってたっけ。そんな感じである。
そんな彼は来年よりわけあって、Spoonでの配信をやれるかわからないそうな。
みんなに愛される、この元気だけどちょっと臆病な、旅が好きな田舎の博識おじさんがいる公民館は、いつまで我々の目の前に現れてくれるのだろう。
それぞれの生活に追われる中でいつの間にかふわりと煙のように無くなって、狐に化かされたかの如く、あの時間はなんだったんだろうかと振り返る時が来るかもしれない。寂しい気もするが、それまで私は勝手に入室し、勝手に出したパイプ椅子に座って、「まずいですよ!」と野次を飛ばしながら、隅の方でにやにやお話を聞いていようと思っている。
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