第4話 すべてのことは繋がっている…… のかも知れない?
第3話に続いて、IR情報などの公開情報をもとに、眉唾モノの推論を続けていきたいと思います。
KADOKAWAさんは、6年前にカクヨムさんを作ったあたりから、いろんな施策を投入して、出版事業の流れを変革しようとしてきました。あの頃は、DXじゃなくって、新文芸宣言って言ってたような気もしますけどね。
第2話では、2021年3月期 通期決算説明資料の16頁、「攻めのDX」の右側について、考えてみました。
今度は、左側です。
「書店受発注の電子化と需要に即応した出荷の推進」
「書店への専用発注端末(DOT)導入で返品率が低下」
抜粋すると、そんな言葉が並んでいます。
KADOKAWAさんは、四半期ごとの決算説明資料で毎回、返品率を掲載しています。数字としては、概ねで40%から25%の間くらいで推移している感じです。
返品率をIR情報に載せている理由は、経営にとって重しになるからでしょう。
多くの産業では、製品に関しては、不良在庫による廃棄ロスと、欠品によるチャンスロスが問題になります。対策は大きく分けて、二つの方向性があります。
ひとつは、必要なモノしか作らない。
お蕎麦屋さんは、お客の顔を見てから蕎麦を茹で始めるといいます。
あと、有名なのは、とあるトヨタ系列の「かんばん方式」です。
つまり在庫をまったく持たない。
最近では、リーン経営と呼ばれているみたいです。必要な時に必要なものだけ作れば、在庫管理に関するあらゆる足枷から自由になれます。その代わり、どこかで何かトラブったら、即ラインが止まりますけど。
もうひとつが、大安売りを打って売り切ってしまうことです。
生鮮食料品や、季節衣料がこれの分かりやすい例です。最終処分ともなると、半額になってますよね。見切り処分ワゴンを見ると、アドレナリンが来るのは私だけじゃないはず……
でも、書籍など著作物には、再販価格維持制度という例外的な制度があって、見切り処分ワゴンが使えません。また、かつては金属活字を手作業で拾い集めて「版」を作っていたので、まとまった数を印刷する方法が取られていたようです。
だから、返品という、私みたいな他の業種の人から見ると、不思議なことが起きているみたいなのです。これに近いビジネスモデルっていうと、富山の置き薬くらいしか、私には思いつきません。
それで、DXです。
DX(|Digital Transformation《デジタルトランスフォーメーション》)というのは、最近、流行り出した不思議な用語です。
従来のIT化が、紙時代の業務フローをそのまま電算処理に置き換えた水準に留まっていたのに対して、DXでは業務そのもの、仕事の進め方や、組織などをがっつり変革することを指す言葉らしいです。
そして、KADOKAWAさんの「攻めのDX」とは、出版にかかるプロセスを変革しようとしている、私にはそう感じました。先ほどからお世話になっているKADOKAWAさんのサイトには、「KADOKAWAグループについて」というページがあって、この中に「DXへの取り組み 」や「出版製造・物流 」というページがあります。
何を言いたいかというと、この6年間のいろいろな施策は、全部繋がっているんじゃないかと思うのです。
作品を作り、書籍として製造して、書店さんへ流通させる。
さらに、ヒット作品のIPを活用してメディアミックスで収益をあげる。
角川書店だった頃からの伝統的なビジネスモデルを、DXで深化させたと考えると、たぶん、全部繋がってくると思います。
・カクヨムさんや魔法のiらんどさんが、上流工程である、作品を作る部分に相当します。
・サクラタウンに新造されたデジタル印刷工場は、書籍を必要な時に必要な分だけを製造できるそうです。つまり、版の単位で生産していたのを、リーン生産方式に切り替えたみたいなのです。
・また、書店さんへ専用端末を配り、直接受発注を管理することで、返品率を下げることができたと、先ほどの決算説明資料にもあります。
・さらに、自社内に3DCGアニメーションのスタジオを持ち、映像化・アニメ化も自社で作れるようになるらしいです。というか、カクヨムコン7の受賞作品から、そうなる作品が出るはずです。
・そして、ヒット作品は、海外へのライセンスなどグローバル展開するのだそうです。世界ですよ。凄いですよね。
まとめると、サポパスは一連のDX施策では、最上流部の行程を担うことになるはずです。ロイヤルティプログラムの説明ページには、『書籍化できるかどうかではなく、少しずつ商業作家になれるように』とありますよね。
小説作品をボーンデジタルで作成し、受賞作品を書籍として生産し、書店さんへ流通させて、ヒットを狙える作品は映像化する…… 一連の業務フローをKADOKAWAさんは、DXにより変革してきたと、言えると思います。
最後に残っているのが、「少しずつ商業作家になれるように」作者さんを育てるという源流部です。ここを読者の「気持ち」とお小遣いで達成しようというのが、きっと、投げ銭にしか見えないのに、「サポーター」になっている理由だと思います。
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