第6話 少女と近習ロバート2

早朝、侍女から報告をうけたロバートは、王太子宮の中を歩いている少女を見つけた。もとの粗末な衣服を着て、迷ったのか、あちこち見ながら歩いている。


「どうされました」

ロバートに、背後から声をかけられた少女は飛び上がった。背の高いロバートからすると、少女は本当に小さい。


「外に行こうと思っていました」

「ご案内しましょう」

昨日のように手を繋いでやり、少女の歩幅を考慮しゆっくりと歩いた。


 途中、すれ違った近習に、アレキサンダーに知らせるように指示した。時間を稼ぐ必要があった。妙な子供がいることは、使用人たちの間ですでに話題になっているため、少女を見つけるのは容易だった。粗末な衣服を着た孤児ではあるが、主の客人だ。ロバートは丁寧な応対を続けることにし、礼儀程度の笑顔はつくっておいた。


  庭に案内された少女が、にらみつけるようにロバートを見つめた。

「素敵なお庭ですね。ご案内いただきありがとうございます。ところで、出口に案内していただけますか」


弁の立つ少女だ。“外”というあいまいな表現を逆手にとられ、わざと、門ではなく、庭に案内されたことに気づいたのだろう。丁寧な口調だが、憤慨している様子は子供らしく可愛らしかった。


「出口とおっしゃる理由をお伺いしていいでしょうか」

ロバートの言葉に、眼を釣り上げていた少女がため息をついた。


「孤児院に帰ります。シスターの推薦状をもらって、イサカの孤児院に行きます。子供たちだけでも助けたいですから。私は知っていることを話すことができるだけです。実行しないならそれまで。聞く耳の無い大人には用はありません。でも、子供たちはそうはいかない。人の意見に耳を傾けない大人のために子供が死ぬ義理はありません。耳を傾けてくれる人がいそうなところに行きます」


早朝の冷たい空気のためか、少女の言葉が冷たく聞こえた。                         

「大人に用はないのですか?」

「聞く耳を持たないものに、何を語れというのでしょう。その時間も惜しいというのに。知っていることを、この国を助けることが出来る人にお伝えしたかっただけのに。途中までしか、お話しする機会をいただけませんでした」

子供とは思えない言葉が続く。


「王太子様は、昨晩、街へ早馬を走らせました。あなたの言った、治療法を伝えるために。それの結果を待ってはどうですか?」

ロバートとしては、少女を落ち着かせるための言葉のつもりだった。


「これだから素人は!」

激高した少女が吐き捨てるように言い、地団太を踏んだ

「すでに発症した患者を治療するだけでは、新規発症を防げないでしょうが!広がる前に止めないと、国中に広がったらどうするの!」

子供とは思えない怒号だった。

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